鼓動の終わる場所
そういうものじゃないの、静雄が上を見上げると跨って静雄の顔をそっと撫でた男の顔だ。臨也の、あの日の臨也の顔だった。してほしくてたまらない顔をしている。してって言ってみろよ。静雄がいうと、惜しげもなく、その言葉ははじきだされる。むしろ不思議な顔をしてして?と首をかしげられる。静雄がその様子に唖然としていると、じれったそうに、おこったように
「早く、つっこんで。ぐちゃぐちゃにして。」
首に腕を回されて、そんなことばをささやかれる。外の音が何も、何もきこえなくなってしまう。
***
電話がかかってきて、相手も見ずにあわてて耳に受話器を当てる。知らない番号ではないが、それは知っていたけれど、自分の携帯に登録などしていない人間の番号だ。
その声の主は一言、本当に短く尋ねる。その声にいつもの覇気はない。
「シズちゃん、今どこ。」
お前の家の近くじゃねぇよ、とだけ告げた。そう、とため息と一緒に彼は言う。
先日ことのすべてがおわったときに、彼に告げられた言葉がいやおうなしに思い出される。
なんかクセになりそうなんだけど。
そりゃあよかったな、と静雄は言い返す。どうせすぐに消えていく感情だ。彼にとって、俺ほど憎いやつはいないって前からわかってたのに、それさえ愛しいなんてどうかしてる。どうか、しているのだ。
「なんの用だ」
「ねぇ、もしかして駅前?そこってさ、カラオケボックスあるじゃない?そこ入ってよ、」
「きけよ。」
「やだ、だって今すごくしたい。」
さらっと言われた言葉に果てしなく反応してしまう。くす、と笑い声が聞こえる。まるでじかに静雄の中心を握られているかのようなこの距離感はなぜ出せるのだろうか甚だ謎だが。
携帯に耳を当てながら歩く。臨也が今上の服脱いだだとか、もう勃ってるんだけど信じられる、などのまるではしたないとしか言えないような言葉を発している。そのうちこいつ一人で喘ぎだすな、と思ったときに、ふ、とものかげになりそうな日陰の場所を発見する。
「野外はいや。」
「言うなよ。お前もう限界なんじゃないのか。」
しばらくの沈黙。そしてはじけたような笑い声。
「してみなよ。シズちゃんそこで失神するくらい俺の声で感じればいいさ。」
指を食む音がする。なめるから、早く脱いでよそこで、と臨也は告げる。もう始まっているらしい。
外の音など何も聞こえないような感覚。世界はここで始まってここで終わる。