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ロストエンファウンド

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本当に、なにも見えていなかったんだな、と思った。その瞬間頭が真っ白になって、全ての音が遠退き、視界が揺らいだ。そうしたら本当に、なにも見えなくなってしまった。
最初から見えていたものなんて、ほんの僅かだったのだと、そうして初めておれは知った。
遅かった・・、かな。


風丸とは幼稚園の頃から一緒だった。正確にはそれよりももっと前かららしいのだけれど、おれはよく覚えていない。
家が近所で、親同士も仲が良かったから、イベント事は大抵いつも一緒だった。誕生日もクリスマスもお正月も、入学式や卒業式も、七五三だって一緒だった。いつだったか(理由なんて覚えてないけれど)おれが計画性のない衝動的な家出をした時だって風丸はひとつ返事で付いてきてくれたし、風丸がひとりで留守番をしなくちゃならなくなった時はおれが泊まりに行ったりもした。
つまりおれたちは呆れるくらいいつも一緒にいて、中学に入って、クラスも、部活も、なにひとつ接点がなくなってしまった時だってなにも変わらないと、変わるわけがないと、信じていた。
(当たり前にあるものを、おれは過信していた)
(当たり前、の意味を考えることも)(その大切さを、知る努力もしないまま)


「おれは円堂みたいにつよくないから」

向けられた背中は、拒絶だった。
足元が崩れていくようだった。コンクリートが溶けて、崩れて、海に沈む。そんな気がした。
これが例えば他の誰かだったのなら、風丸ではない誰かであったのなら、そうしたらおれはきっとそいつの腕を掴んでこう云ってやっただろう。
「おれだってつよくないよ。誰だって他人が思うほどつよくなんかないよ。だから一緒にいるんだろ。仲間がいるんだろ」って。
「つらいなら、おれがいるよ。それでもどうしても無理って云うならお前の思うようにしたらいいよ。けどおれは待ってるから。だからお前がまた戻れる、大丈夫だって思えるようになったら帰ってこいよ。おれ、待ってるから」

待ってるから。

風丸にはその一言だって云えなかった。
まるで言葉を忘れてしまったかのようにただ立っていることしかできなかった。遠ざかる背中が霞むのを、瞬きせずに見つめることだけ。
風丸があんなことを云うんだ。
いつだっておれを信じてくれた風丸なのに。
おれが大丈夫だよ、って云えばどんなに不安そうな顔をしていても、そうだな、って笑ってくれたのに。
それだからおれも大丈夫だって思えた、のに。

遅かった。

働かない頭に浮かんだのはその言葉だった。
もっと、ちゃんと風丸と話をしなきゃ、いけなかったんだ。


いま、なにしてるかな。
福岡からひとりで帰るの、大変だったろうな。
無事に帰れたかな。
飯、ちゃんと食べたかな。
あいつ、悩み出すと他のこと全く見えなくなっちゃうから。
・・人のこと云えないけど。

おれがばかみたいに突っ走っても、いつだって風丸は付いてきてくれた。どうしたらいいんだろって迷った時は後ろから押してくれた。
風丸は「おれはいつも円堂を追いかけているだけだよ」と笑うけれど、その風丸の存在が、どれだけ大切で、心強かったのか風丸は知らない。
(おれだって、初めて知った)(だって、本当に当たり前にあったんだ)(そしてその絶対の存在を失う日がくるなんて、)
(思いもしなかった)


こんなんじゃダメだ。
おれがしっかりしなきゃ。
おれが雷門中サッカー部のキャプテンなのだし、おれがいつまでも落ち込んでいたんじゃ、豪炎寺も染岡も半田たちも、みんなきっとがっかりする。
がんばらなきゃな。
がんばるよ。
おれは大丈夫だよ。
諦めなきゃ必ずうまくいくって、まだ信じられるよ。

けど、





だけど、







やっぱり、さみしいよ。







無意識にフィールドに風丸の姿を探してしまう自分に気付いて頭を強く振る。
顔を上げれば秋の不安げな眸がこちらを向いていた。大丈夫だ、とおれは力強く頷く。鬼道の指示をする声が聞こえる。塔子と壁山が走り出す。土門からのパスを受けた一之瀬がライトを一気に走り、ぽかりと空いた空間にボールを蹴る、と、リカがすかさずその空間に飛び込む。完全にフリーになった彼女の足から顔に似合わない強烈なシュートが繰り出される。
おれがにかっと笑って、「よし、いいぞー!」と腕を振り上げて声を掛ければ、振り返ったみんなから笑顔が零れる。

風丸はいま、なにを考えているかな。
サッカーのことを考えているかな。
おれのこと、考えてくれているかな。

おれは、たぶん、おれたちは、自分が思っているよりずっと視野が狭くて、見えているものなんて限られていて、間違うこともいっぱいあって、投げ出したくなることも、諦めたくなることも、本当はそんなことしたくはないのに、でもどうしようもなくなって、それ以外の方法があるなんて思えなくて、不本意な道を選んでしまうことだってあるだろう。気付くのが遅すぎたと、後悔することもあるだろう。
けれど、きっと、遅すぎるなんてことはないんだと、おれは信じたい。きっとまた、云えるはずなんだ。「サッカーやろうぜ」って。
だって、サッカーを嫌いになったわけじゃないんだろ。
それくらいはわかるんだ。

だって、本当に呆れるくらいずっと一緒にいたのだから。





(また一緒にサッカー・・・できる、よな?)

作品名:ロストエンファウンド 作家名:けい