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また逢う日まで

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一体何が彼の気に障ったのだろう。
酸素の足りない霞掛かった頭で燐は考える。
なにかあった筈だ。彼の、雪男の、逆鱗に触れた何かが。
理由はわからない。
自分はいつでも後から気付く。いつも。
知らず、何か彼を傷付ける言葉を吐いている。行動を起こしては、彼を困らせる。
それと気付くのは、決まってやらかしてしまった後だ。一通り怒られた後、彼に悲しそうな目をされて、困った様に微笑まれて、そうして漸く。
傷付けてやろうと思ってしたことなどない。そんな意図はない。だけど自分が何かしら行動を起こすことで他人が傷付くことが多々あるのは知っている。そしてそれが、自分ではどうしようもない類のものであることも。
良かれと思ってやったことだ。どれもこれも。だが周りは堪え切れずにボロボロと欠けていくか、そうでなければぎりぎりまで磨り減らされて消耗していく。
わかっている。自分が悪い。およそ上に立つ人間のすべきことではない。
だからといって止まれる筈もなかった。自分はやるべきことをやっただけ。
自分の思う道を進んでいるだけなのに、気が付けば隣にいたはずの人間が誰一人いなくなっている。いつも。
いまも。
だがこれが自分なのだ。生まれ持った性質であると思っている。変えられる筈もないし、変える気もなかった。
そうした自分の気性がおそらくは彼を酷く傷付けてしまっているのだろう。昔から、ずっと。

「……兄さん。」
ようよう搾り出した様な、痛みさえ感じる声だ。亡羊としてはいても、こんなことを考える余裕さえ自分にはあるのに、雪男にはまるで余裕がない。彼の方が余程苦しいのだとさえ思われる程に。
燐にはわからない。彼の考えていることが、彼の言わんとすることが。
だがいつでもそれは、自分が悪いということだけは分かっていた。いつだってそうだった。だからきっと、いまも。
「………兄さん、」
ほら、またあの目だ。
責めるでもない、詰るでもない、どこか諦めの混じった悲しげな目。手を上げられた方が余程気が楽だと思われる、そんな目で彼は無言の圧を燐に送るのだ。
どうしてわからないの、過去一度だけそう聞かれたことがあった。そのときも彼は同じ目をしていた。


首に掌が埋まってゆく。少しずつ、ひと呼吸ごとに肉を骨を圧迫して。嗚呼。

「兄さん」

愛してるよ。

白く霞んでいく視界の中で、燐は彼のくちびるが紡ぐかたちを拾った。
酷く耳鳴りがする所為で音が届くことはなかったけれど、十分だと思った。

俺も、と返そうとしたけれど、酸素を欲しがる開きっぱなしの口はどうしても言うことを聞いてくれない。悲しくなって、せめて涙の一粒でも流せれば良いのだけれど、それも叶わなかった。壊れた蛇口みたいに、もうずっと流れたままでいるからだ。これではもう何が悲しいのか、何が嬉しいのか、雪男には判らないだろう。

お前に殺されるから悲しいのじゃなくて、お前が好きだと伝えられないのが悲しいのだと。
お前が好きだから、最期にお前が愛を告白してくれたのが嬉しいのだと。
分かって欲しかったのだけれど、すべては遅すぎた。

目蓋の裏に白い世界が広がっていく。幼い頃、今は亡い義父とともに一晩中雪が降り積もるのを弟と見ていたことを思い出す。都会には珍しい銀世界、綺麗だと素直に思った。

「……き、…」
雪男。
誰より大切だった、俺の弟。
分かってる。俺が悪い。
最後の最後まで、雪男にこんな顔をさせている。こんな、誰にも見せられないような、情けない泣き顔を。
「……、」
泣くな、と言ってやりたかった。せめてこの止まらない涙だけでも、手が動けば拭ってやれるのに。
最後にひとつだけ、雪男のために、彼の為だけに、何か。

してやれるのが、彼の世界のために死んでやれることだけとは。
たったひとつ残してやれるのが、兄を縊り殺した感触だけとは。

まったく情けない兄貴だ。思って燐は目を閉じた。
悪魔の兄と、兄殺しの弟。
泣くな、雪男。少しの辛抱だ。きっとすぐにまた会える。

咎人ふたり、いずれ、地獄で。
作品名:また逢う日まで 作家名:嶋真