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【SPARK5】お戯れを・・・【新刊サンプル】

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『よくある誤解』



 そこに、古泉一樹と涼宮ハルヒの二名だけしかいないのは割と珍しい光景であった。
 文芸部部室であり実体は涼宮ハルヒを団長とするSOS団の部室であるそこには、文芸部員にしてSOS団メンバーの一人である長門有希がいつでも座敷童か部屋のヌシかのように窓際に置いた椅子に座り、読書をしているのがデフォルトな光景であるはずだ。だが今日はその姿はなく、室内の様子を更に珍しいものとしていた。
「三人とも遅いわねー。キョンのやつ、掃除ぐらいちゃっちゃと終わらせられないのかしら」
「長門さんも朝比奈さんも掃除当番でしょうか?こう重なるのも珍しいものですね」
「ホントにね。いっそ全員当番とかなら何か陰謀めいたものを感じるぐらいはして楽しかっただろうけど」
 珍しい偶然でこの珍しい光景ができあがっているのだが、だからといってそれになんらかの含みがあろうはずもなく、ハルヒはただこの偶然で暇を持て余すこととなった。
 普段ならハルヒに暇を与えるとあまりよくない事態が発生しやすいため、そうならないように気をつけている古泉だが、今日のこれぐらいなら他のメンバーが来れば自然に解消される程度なので特にこれといったことはしていない。最初にボードゲームを誘ってみたもののやんわりと断られたので、そこまで暇を嫌っているわけでないこともわかったからだ。
「まあ掃除ぐらいでしたら、どなたかそう時間もかからずに来られると思いますよ。ああ、朝比奈さんには遠く及びませんが彼女が来るまでお茶を淹れましょうか?」
「んー、今日は暑いからいいわ。ていうかそうよ古泉くん、貴方暑くないの?」
「え?」
「ボタンもネクタイきっちり締めて、シャツの裾もズボンにいれて制服着用の見本みたいにきちんとしてるけどそれじゃ暑くない?ウチのクラスの男子ほとんどが着崩しちゃってるわよ」
「はぁ・・・特段考えたことはありませんでしたけれど」
「そうなの?無理してない?SOS団の副団長である以上きちんとしなきゃっていう意識は立派だとしても今なら私しかいないしラフにしちゃっていいのよ?」
「いえ、そんなお見苦しいところは・・・」
「気にしなくていいわよ。古泉くんいつもがんばってるんだし、時には息抜きしなきゃ。キョンあたりがそれ見て一緒に余計だらけると困るからそこはちゃんとしてもらわなきゃならないけど、私は団長だから大事な副団長を労ってあげないとね」
「い、いえ、本当に大丈夫ですから」
 なおも遠慮する古泉だがハルヒは意地にでもなったかのように椅子から立ち上がり古泉にずかずかと迫っていた。
「やっぱりね、視覚的な涼しさというものはあるというのよ。きっちり着込んで肌の露出が少ないのは暑さを感じさせるのよ!」
「あ、暑苦しいでしょうか?」
「そこまではないわ。古泉くんって涼しそうな顔してるからこっちも少し涼しく感じられるぐらい」
「ええと、ではこのままというわけには・・・」
「ぶっちゃけ古泉くんが着崩してるところを見てみたいわ」

 ぶっちゃけすぎである。

などとここでツッコミをいれてくれるような者の存在は勿論今ここには不在である
 古泉自身はここで大人しく彼女の要求に従うべきか、どうにか話を逸らしてあきらめてもらうべきかを悩んだ。
 しばし悩んだところで、彼女の要求を聞くことが最も平和的且つ適当であると言うことは分かるのだが、やはり女性の前でわざわざ肌蹴るというのに多少なりの抵抗がある。しかしとりあえずネクタイぐらいならと思わなくもない。
 そうしてゆっくりネクタイに手をかけるかかけないかのところで、結局ハルヒが動いた。
「シュッと抜いちゃいなさーい!!」
「うわぁっ」
 ネクタイの結び目をつかみ勢いよく引き抜いたものだから古泉がバランスを崩して倒れ込むこととなる。勿論ハルヒの方へ、と。
「す、すみませんっ!!大丈夫ですか!?どこか怪我とか・・・」
「ああ、大丈夫よ。こっちが引っ張っちゃったからね。それよりこのまま動かないでね」
「え?」
 このまま、というのは先程ハルヒが古泉をネクタイごと引っ張り、バランスを崩してしまってからの現在の状況である。詳しく言えばハルヒは床に仰向けになり、古泉はその上に覆い被さるように、けれどハルヒをつぶさないようにと彼女の顔の横に両手をついて体を支えている状況だ。
 そんな、本来は古泉がハルヒのせいで倒れたにも関わらず、ハルヒをかばうために体をはった結果が現在の状況であるのだが、はっきり言えばそれは古泉がハルヒを押し倒しているようにしか見えない。しかもハルヒが古泉のネクタイをほどこうと胸元に手をやっている姿もパッと見た瞬間、抵抗しているように見えなくもないのだから古泉は焦った。
 うっかりこんな状況を誰かに見られでもしたらと思うと古泉は早く起きあがってしまいたかったが、いまだネクタイをつかんだハルヒがそれを許さない。ひっぱった拍子に結び目が固くなってしまったのか、真剣な表情でネクタイを解こうとし、離す気配もない。
「あの、涼宮さん、この体勢もかなりキツいものがありますし、起きあがってもよろしいでしょうか・・・」
「もうちょっと待って。もうちょいでほどけそうなのよ」
 この状態のままネクタイをはずされてしまうと誤解にさらなる信憑性を与えかねない。できればその前に起きたい。
 そのとき、階段を上ってくる足音が聞こえてきた。部室内にまで聞こえてくるぐらいだ。すでにかなり近い位置にまで上がってきているのだろう。古泉は益々焦った。とは言ってもあくまでハルヒの前。無様にあたふたすることもできず、内心にて焦るばかりで結局何もできず足音のカウントダウンをただ聞くだけ。

 がちゃり

「すみませぇん、遅くなりました。お掃除が長引い・・・ひゃ、ひゃああああ、あ、あわっ、え、え!」
 次に上がったのがかわいらしくも短く驚いたような悲鳴であったのは幸いかもしれない。できれば無言の主がドアを開けたのなら最上だったが、「うわっ」とか「お前ら・・・」などの呆れた声が聞こえるよりは遙かにマシだ。
 古泉はそう思い、果たしていかにしてこの後、扉を開けた不幸な先輩に口止めといいわけをしようかと古泉は考えた。
 彼の下ではようやくハルヒが「ほどけたっ!」と嬉しそうな声を上げていたのだった。





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