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人を呪わば穴二つ

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 セルティはバイクを降り、臨也につかつかと近寄ると、その襟首を掴み上げた。臨也のつま先が宙に浮く。
「……何? 止めてよ」
 セルティは、そのまま臨也を揺さぶる。
「ちょっと。言いたいことがあるなら口……は無いから文字で言えよ」
 抵抗の術も無くがくがくと揺さぶられながら、臨也が迷惑そうに言う。
 ――――――よく舌噛まないな、コイツ。
 セルティは臨也の襟元を離したが、拘束は解かなかった。通行人から奇異の視線が集まっているが、セルティは気にしない。しかし、臨也は気になるようだった。周囲に視線を走らせている。
「用があるなら聞くからさ、場所変えない?」
 セルティは臨也の提案を黙殺し、別の文章をPDAに打ち込んだ。
『帝人に変なこと吹き込んだだろう? 何を企んでるんだ?』
 臨也は、不思議そうに首を傾げた。セルティは、即座に影を締め付ける。
「いきなりそんなこと言われても分からないよ。……ていうか、痛いってば。俺この前刺されたの、新羅に聞かなかった?」
 セルティは、臨也の自己申告に応じて影の拘束を緩めたが、解放はしなかった。
 九瑠璃と舞流は、兄を助けようという気は無いらしい。興味深げに臨也に絡みついた影を、つついたり引っ張ったりして遊んでいる。
『杏里ちゃんのことだ』
 セルティがそう示すと、臨也が合点がいったかのように頷いた。
「なんだ、そんなこと。別に何も無いよ。ただ、個人的に調べていたことを教えてあげただけ」
 さも何でもないことのように言う臨也に、セルティは肩を怒らせた。
『余計なことを』
 セルティの文面を見て、臨也は軽く首を振った。
「いや、俺も実際のところは知らないんだ。帝人君には、一応警告のつもりで知らせたんだけど、その言いようだと君は何か知ってるのかい?」
 臨也にストレートに尋ねられ、セルティは僅かに狼狽してしまった。
 臨也は鋭い観察眼ゆえか、新羅ほどでは無いがセルティの心理を読むことがある。セルティも正確な情報を持っていないことに、臨也は気が付いた。
「何の根拠も無く、そんなこと言ってるのかい? 君も案外直情型だね。俺だって、勿論あの子が自分の意思でやったとは思ってないよ。言いたいこと、分かるだろう?」
 臨也は、澄ました顔で言った。セルティは言葉に詰まったが、何とか体勢を立て直そうと反論を考える。
「とりあえずさぁ、これ解いてくれない? 別に君から走って逃げるような、無謀な真似しないよ」
 臨也が不満そうに漏らす。そろそろ、遠巻きに人だかりが出来てきた。中には携帯を構える者もいる。
 セルティが逡巡すると、タイミングを見計らったかのように、セルティの携帯に連絡が来た。臨也の拘束は解かぬまま、携帯を確認する。
「おいおい……」
 臨也が、呆れ果てて呟いたが、セルティの気には留まらなかった。
 メールは新羅からだった。部屋の片付けが終わったらしい。
 ――――――今臨也を締め上げてるから少し遅くなるかも、と……。
 元はといえば、セルティは新羅の夕食を求めに露西亜寿司に向かっていたのだ。そこで偶然臨也の姿を見つけ、今に至る。
 セルティは恐ろしい速さで返信すると、携帯をしまった。しかし、再び振動が響いて、すぐに取り出す羽目になる。メールの返信にしては早いと思ったが、着信音が長い。電話だった。不思議に思いながらも、セルティは着信ボタンに指をかける。
『もしもし、セルティ? 臨也そこにいるのかい? ちょっと代わってくれる?』
 セルティは不思議に思いながら、臨也に携帯を差し出した。とは言っても、臨也は手が出ないので、影で携帯を耳元に近づけてやる。
『お、臨也だ。久しぶりー』
 不審がっていた臨也は、新羅の声が聞こえた途端、拍子抜けしたように肩を落とした。
「なんだ、新羅か。君の彼女、何とかしてよ。街中でいきなり人のこと縛り上げてさぁ。とんだ晒し者だよ」
『おっと、事の次第は聞いたよ。悪いけど、君の味方は出来ないな。まぁ、僕は元からセルティの味方なんだけどね』
「……あっそ。で、何か用?」
 臨也は、疲れたように溜め息を吐く。
『君、今度は何を企んでるのかな?』
 断定する新羅に、臨也は苦笑を浮かべた。
「あのさぁ、俺だってそんなに暇じゃないんだよ?」
『へぇ? 暇じゃないのにわざわざ、帝人君に変な情報流したって? そりゃご苦労様』
「……急にどうしたんだい? 良い人ぶっちゃって」
 臨也が嘲笑する。
「仮に俺が何か企んでたとして、君達には関係無いじゃないか」
『大アリだよ。現に、君のせいでうちのリビングが大破したからね。あ、領収書送るから、弁償してよ』
「は?」
 不思議そうな顔で言葉を続けようとした臨也を遮って、不意に、暢気な着信メロディが響いた。少しずれたタイミングでもう一つメロディが重なり、不協和音に変容する。
 影をいじって遊んでいた九瑠璃が、携帯を取り出した。舞流も同じように携帯を開く。
「うわぁ、そろそろ黒沼青葉の文字で受信履歴が埋まりそうだよ。クル姉ってば愛されてるねぇ」
「否(そんなんじゃないってば)」
 舞流が口走った名前に、セルティは意識を奪われた。しかし、双子はそれに気付かずに会話を続ける。
「でもでも、今日はイザ兄と遊んであなきゃだし、返事しちゃ駄目だからね」
「了(わかってるよ)」
「お前ら、少し黙れ」
 電話から口を離して、臨也が静止の声を上げた。
 ――――――臨也の妹か……歳が近いみたいだし、知り合いでも不思議は無いか。
 セルティは、数ヶ月前にに自分を尋ねてきた得体の知れない少年を思い出す。
『妹連れてるんだ。珍しいね』
 電話越しの新羅にも、双子の声は届いていたらしい。
「家族サービスだよ」
『あはは、似合わない。ところで今、黒沼青葉って言った?』
「……何? 知ってるの?」
 臨也は、表情を動かさずに言った。
『限りなく知り合いに近い他人、かな。それにしても、どうも良い予感がしないなぁ。帝人君、杏里ちゃん、黒沼青葉、ついでに君の妹達、役者が揃い過ぎてる』
「勘繰り過ぎだよ。皆同じ学校ってのは、確かに俺も出来過ぎだと思うけどね」
『あの学校に君と静雄も通ってたってことを考慮すると、本当に出来過ぎだよね。類は友を呼ぶのか、それとも校舎が呪われているのか……』
「さりげなく自分を棚に上げるなよ」
 臨也と新羅が皮肉の応酬をしている間に、セルティは双子の傍に寄った。PDAに文章を打ち込み、二人に示す。
『今日は返事しちゃ駄目って、どうして?』
 舞流の言い方が引っかかって、セルティは尋ねた。
 臨也と青葉、何も無い方がおかしいぐらいの組み合わせだ。少なくとも、青葉は臨也を敵対視しているようだった。勘繰るなという方が無理がある。
「それはねぇ」
「……秘(内緒)」
 二人は、内緒話をするように声を潜め、悪戯っぽく笑った。故意に臨也に聞こえないようにしているふうでもあった。
 セルティは少し考えると、双子に交換条件を持ちかけた。


作品名:人を呪わば穴二つ 作家名:窓子