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ファースト・グッド・モーニング

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「んん……」
珍しいことに目覚まし時計が鳴るより早く、トムはぼんやりと目を覚ました。カーテンの向こう側では既に太陽が昇っているらしく、室内はうっすらと明るい。
時間を確かめようとサイドボードの時計に手を伸ばしかけて、トムは傍らで眠る静雄に目を止めた。すうすうと眠っているその顔は存外と幼くて、彼が気持ち良さそうに寝息を立てていることにトムは小さく安堵の息を漏らした。
――ああ、やっちまったんだなぁ。
自らに向けて苦笑をこぼす。けれど後悔は欠片もなかった。
目覚まし時計を手に取って、時間を確認する。セットした時間まで後数分。静雄を起こしてしまわないようにそのスイッチを解除して、トムはひとりベッドからそうっと立ち上がった。
いつもと同じように身支度を整え、朝食の準備――と言ってもパンをトースターに入れるだけだが――を始める。そこで、はたと思い出した。たしか静雄は、毎朝牛乳を飲むと言っていなかっただろうか。
――牛乳なんざ、ねえぞ……?
試しに冷蔵庫を開けてみても、やはりそこには烏龍茶のペットボトルと缶ビール以外、飲み物は見当たらなかった。買いに行こうかと一瞬だけ逡巡して、即座に却下する。もしもその間に静雄が起きてきたら、部屋に誰もいないのは不安だろう。
――次からは買っといてやっか。
無意識に次の機会を考えながら、今日はコーヒーで我慢してもらおうと冷蔵庫をぱたりと閉めた。同時に、トースターがチン、と小さく焼き上がりを知らせる。トムはそれに一瞬だけ目を向けて、それからポットに十分な量の湯があることを確認して頷いた。
「うし、静雄起こすか」

***

「静雄ー」
「ん……トムさん……?」
名前を呼んで軽く身体を揺さぶると、静雄はぼんやりとその目を開いた。どうしてここにトムさんがいるんだろう、という表情でトムの顔をまじまじと見上げながら、のそりと身体を起こす。
――おーおー、寝ぼけてんなー。
まるで子供のようにぼうっと眠そうな目で自分を見つめる静雄に、トムは小さく苦笑を浮かべた。そういえば学生時代も、昼寝の後はよくこんな目をしていたなぁと頭の隅で思い出す。
「大丈夫か、静雄。起きれっか?」
「は………………、あっ、と…………っ」
トムの言葉を逡巡して、ようやく今の状況に思い当たったらしい。昨夜のことを思い出したのだろう、静雄は一瞬ひどく動揺して、それから赤くなった顔を隠すように俯いて消え入りそうな声で答えた。
「大丈夫……っす……」
「ん。んじゃ、とりあえず顔洗って来い。な? んで、飯食って仕事行くべ?」
「はい……すんません」
子供に言い聞かせるように促すと、静雄は俯いたままで小さくこくりと頷いた。恥ずかしさと、それから申し訳なさがないまぜになっているのだろう。そんな静雄の様子がいじらしくて、トムは困ったように頭をかいた。
静雄が申し訳なく思っている理由はなんとなく理解できる。こういう関係になったこと。昨夜の行為。そのきっかけが、静雄によるものだったからだ。静雄はトムを巻き込んでしまったと、そう思っているのだろう。
けれど、違う。
静雄の気持ちを受け入れたのは、トム自身の意思だ。というより意思も何も――静雄を、可愛いと思ったのだ。弟だとか後輩だとかに対するのとは、違う意味で。それは昨日きちんと伝えたし、静雄も理解はしているはずだった。ただ、まだ気持ちが混乱している部分もあるのだろう。
「謝んなきゃなんねーことなんざねぇよ。ほら、早く支度すっぞ」
そう言って、気にするなという風に静雄の頭をぽんぽんとたたく。少しの間をおいて、静雄はようやくトムの方に顔を向けてもう一度こくりと頷いた。
「……うす」
それから、窺うようにトムの顔をじっと見つめる。
「……あの、トムさん」
「ん? どうした?」
やはりどこか身体がだるいのかと僅かに心配になって尋ねると、静雄はトムの顔を見つめたままでためらいがちに言葉を漏らした。
「……おはよう、ございます」
その言葉に、トムは一瞬ぽかんと口を開く。何か言いそうになって、けれども何も言えなくて、トムは気が抜けたようにくしゃりと笑った。
「おう。おはよう」
照れを隠すように静雄の頭をわしゃわしゃと撫でると、ようやく静雄も嬉しそうに、照れたような笑みを零した。