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真夏の昼の夢

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太陽が最も高い位置から見下ろす午後2時すぎ。
燦々と降り注ぐその光よりも強い金色の髪が、汗を流す彼の首筋に張り付いてきらきらと眩さを増している。その様は気だるげに嚥下する喉の動きと相まって、どこか淫靡めいた雰囲気を醸し出していた。それに対する黒髪の青年は、同様に汗をかいていながら微塵も暑苦しさを感じさせず、その秀麗な顔にうっとりとした笑みを浮かべている。
「ねえ見てシズちゃん……。ほら、すごいよ? こんなに奥まで入ってる……」
金髪の彼に見せつけるようにそれを誇示して、満足そうに唇を歪めた。それから彼のそこに視線を止めて、意地悪そうに息を漏らす。
「ああほら、もうこんなに垂らして……べとべとじゃない。こっちも綺麗にしないとね……」
「……っ」
その言葉に反応したのか、彼の身体がぴくりと動く。金の髪がわずかに揺れて、またきらきらと輝きを零した。
「あっ! ちょっともう、動かないでよ……。シズちゃんのせいで俺までべとべとになっちゃったじゃない。ねぇこれ、どうしてくれるわけ?」
うんざりと眉根を寄せた臨也に、静雄はぶるりとその身を震わせ――

「……っ臨也あああああああああ!!!!」

我慢の限界だとばかりに、手の中のそれを投げつけた。

***

飛んできたものをひらりとかわして、臨也は地面に落ちたそれに大げさな声を上げた。
「あーあ、もったいない!」
ぐしゃりと無惨に潰れた食べかけのコーンから、まだ残っていたバニラアイスがどろりと溶け出している。
苛立ちを露わに忌々しげに睨みつけてくる静雄を横目で見遣り、臨也は最後のひとくちを飲み込んで満足気に唇を舐めてみせた。
「だめじゃない、食べ物を粗末にしちゃあ」
「っ誰のせいだと……思ってやがる……!!」
小馬鹿にしたような臨也の台詞に、静雄は全身をワナワナと震わせて一番手近な街灯をがしりと掴んだ。ミシリ、と地面に亀裂が走る。
それを見た臨也は一瞬だけ僅かに顔を引き攣らせ、制服のポケットからサバイバルナイフを取り出した。先端を静雄に向けて距離を取り、唇の端を上げて楽しげに言葉を紡ぐ。
「ひどいなーシズちゃん。俺はただ、君と一緒にアイスを食べたかっただけなんだけど?」
「うるせえ! 最初から嫌がらせが目的だったんだろうが!!」
勢いよく街灯を引き抜いて、静雄はそのままそれをぶん投げた。けれども当然のようにそれを予想していた臨也はアイス同様に難なくかわし、にこりと笑って降参だとばかりに両手を上げる。
「やだなあ、ほんとだってば! ま、一応アイスは食べれたし今日はこれで良しとするよ! じゃあねシズちゃん!」
言うが早いか、身を翻してそのまま来た道を走り出した。
それを静雄が追わないはずもなく。
「ノミ蟲てめえ……! 今日こそ殺す!!」
こうして今日もまた、二人の追いかけっこが始まった。

***

「あ―あ、行っちゃった」
それまで面白そうに傍観に徹していた新羅は、二人が走り去った先を見つめてやれやれと肩を竦めた。それから傍らの門田に、困ったもんだよねえ、と笑いかける。
その微塵も困っていなさそうな声音に門田はうんざりと息を吐き出して、地面に放り出されたままの静雄の鞄を拾い上げた。
そもそもの事の初めは、2時間前に遡る。
ちょうど学期末の最後の試験が終わり、あとは夏休みを待つだけだと解放感に溢れていた静雄に声を掛けたのは、最も顔を合わせたくない犬猿の仲であるはずの臨也だった。
「ねえシズちゃん、一緒に帰らない?」
上機嫌でそう誘いかけた臨也はひらひらとアイスクリーム専門店のタダ券(今日まで有効)を見せつけ、さらに新羅と門田をも巻き込んで、上手く静雄を丸め込むことに成功した。
そうして微妙な均衡を保ちながら店を訪れ、それぞれに好きなアイスをもらって店を出たところまでは良かったのだが――臨也が静雄に何もせずに、終わるわけがなかった。
「それにしても、“君と一緒に”って……最初から静雄くんしか眼中になかったのはわかってたけど、何かちょっと傷つくよね」
「……まあな」
にこにこと笑顔を浮かべて言った新羅に、「言うほどには傷ついていないだろう」などとはさすがに返せず、門田は複雑な顔をして頷いた。臨也が自分を誘ったのは静雄の不信感を減らすためだと理解した上で、何かあった場合に対処出来ればと同行した門田だったが、結局キレた静雄には制止の声すら届かなかったらしい。
「静雄も相手にしなきゃいいんだろうが……何でああも、臨也は静雄に構うんだろうな」
「うーん、好きな子は苛めたいってやつなんじゃないかな? ほら、臨也ってコドモみたいなとこあるからさ。ああ、それ僕が預かっとくよ。後で家に取りに来るように連絡しとく」
「……………………ああ。頼む」
さらりと言われた新羅の言葉の意味が呑み込めず一瞬ぽかんとした門田は、差し出された新羅の手にハッとして静雄の鞄を預けた。――臨也が静雄を、なんだって?
じゃあまた明日、と帰って行く新羅の後ろ姿を見送りながら、門田は先程の新羅の言葉と臨也の行動とを思い起こした。けれどもすぐに頭を振って、考えるのを放棄する。
何にせよ、自分にはあの二人の衝突をどうすることもできなかったのだ。
自分の不甲斐無さに小さく溜息を吐いて、門田もその場から歩き始めた。
――夏休みまであと数日、何事もなく過ごせることを願いながら。
作品名:真夏の昼の夢 作家名:ユトリ