二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

ワールドエンドトワイライト

INDEX|1ページ/1ページ|

 




日が落ちるのが早くなったと思えばもうそれは季節の変わり目で、いやもしかしたら夏というものはもう随分前に別れを告げていたのかもしれないけど、わたしがそれに気づいたのはもうすっかり秋めいた、ひんやりした夜の中だった。月の色が夏よりやわらかい気がする。十五夜をとうに過ぎた10月のはじまりだ。
隣を歩く唯先輩は両手を制服の上着のポケットにつっこんでいる。こけたら両手がつけない状態。危なっかしいなあ。

「今年はなんだか寒くなるのがはやいねぇ」
「そうですね」

でもまだ、すこし手が冷える程度で、これからどんどん寒さは増すし、マフラーだって、手袋だって必要になるんだから、この程度の寒さに負けている場合ではないのだ。だから、先輩は、はやくポケットから手を出すべきで。

「もう学祭なんだもんねぇ」
「・・・そうですね」

先輩は、いや、先輩たちは、クラスの出し物のほうに最近は追われているようで、部の方にはあんまり顔をだしてくれない。今日だって、なんだかひさしぶりに唯先輩と帰る気がして、わたしはまたなんだか胸の奥のほうがじりじりする感覚におそわれる。わがままは言わないって決めたから、わたしはせめて気づかれないように声色に気をつける。ほんとうは、残された一日だって、先輩達といっしょに過ごしたいなあとおもうのだけど、でも、それは今言っちゃあいけないことだ。後でも、多分言っちゃ、だめだ。わたしに今しかないように、先輩たちも、今しかないのだから、それは互いに尊重すべきことで、わたしができることは、いつ先輩たちと音を合わせてもいいように、練習することだけだ。わかっているけど。でも。
唯先輩はふでぺんボールペンを鼻歌で歌う。手はまだ、ポケットのなかだ。

「・・・先輩」
「んー」
「手、あぶないです」
「手?」
「こけたら、顔面からいっちゃいますよ」
「えー、こけないよぉ」

そう言いながら唯先輩は、スキップをしてわたしの前に踊りでたあと、くるっとまわろうとした。でも、先輩はほんとうに、ドジを地でいくひとだから、やっぱりきれいにすべって、あっと思ったときにはわたしの前で、どすんと尻もちをつくのだ。ほんとにもう、このひとは。

「ちょっ、だから言ったのに!大丈夫ですか?!」
「いたぁ・・・」
「もう!しっかりしてください、ほら」

目の前で座りこんで、照れたように笑う唯先輩に手を差し出す。先輩の手は、もうポケットのなかじゃなくて、わたしの手を握っていた。ほっとするくらいに、温かかった。

「ごめんね、あずにゃん」
「怪我、してないですか?」
「うん、ごめんね」
「もういいですけど、ほんと気をつけて」
「ごめんね、あずにゃん」

そのまま唯先輩はわたしの手をぐっとひっぱって、ぎゅうっと、抱きついてきた。わたしも先輩も、ギターを背負っていたから、ギターごと抱きしめられたというのが、正しいけど。先輩の髪がほっぺたをかすんで、くすぐったい。さっきまで寒かった体が、ぐんとあつくなったようだ。耳のあたりが落ち着かない。わたしはやっぱり幼いから、ひとつだけでも、幼いから、やはりかなわないのだろうか。見透かされるんだろうか。顔が見られなくてよかった。まだ、平静の演技ができる。

「・・・なんですか」
「んーあずにゃんひさしぶり」
「意味わかんないです」
「あーずにゃーん」
「ていうかここ道ですから」
「あずにゃんの手、つめたかった」
「そりゃ、きょう、寒いですし」
「あんまんでも食べて帰ろうかぁ」
「・・・べつにいいですけど」

あったかいあんこは、ちょっと魅力的だ。唯先輩はわたしの肩をつかんで、すこしだけ体を離して、いつものばかみたいな、抜けた笑顔をみせた。
普段お菓子ばっかりたべてるくせに、勉強もあんまりやらないくせに、専門用語も覚えれないくせに、変なセンスしてるくせに、抜けてるくせに、それでもわたしはやっぱり先輩には、敵わなくて、いまだってこうして、全部見据えてる先輩に、せめてもの意地しかはれないのだ。こういうとき、ひどく自分がこどものようで、かなしくもなり、だけどくすぐったくもなる。この曖昧な感情をなんとよぶのか、わたしはしらない。けど、なんだかたいせつなような気がして、忘れた振りをしたくないものだ。きちんと、向き合いたいものだ。

「もう、手はちゃんと出してくださいね」
「うん」

そう頷いた唯先輩は、ぎゅうとわたしの手を握る。やわらかくて、おもちみたいな、唯先輩の手は、やっぱり、でもさっきよりもぬくかった。ふたりぶんの体温が、あつまったような。

「こうしたらあったかあったかだよ」
「・・・べつにいいですけど」

いいですけど、コンビニにつくまでですからね。つめたい空気のなかにきんもくせいの匂いがまじって香った。はっとしてぎゅうっと先輩の手を握り返した。空気がとまることを祈った。せめて、コンビニに、つく間だけ。