腹上死よりしあわせ
──AM 07:48
目が覚めた。
珍しく、彼よりも先に。
…ああそういえば最近は朝が早く帰りが遅い現場だったそうで、寝不足ぎみって言ってたっけ?
確かに、静かに眠るその顔には疲れが残っている。
今さらながら気付くって、昨日は自分も切羽詰まってたんだなあと思わず苦笑した。
まあ、それをちっとも考慮せずに、自宅そして寝室さらには同じベッドに引っ張り込んでしまったのだけれど。
おかげで久しぶりに満腹というか。ごちそうさまでした、というか。
いやまあ食べられたのはこっちなんだけどね。
素肌に触れるシーツが心地好くて、どうにも起き上がる気になれない。
朝特有の冷えた空気を感じればなおさらぬくもりが恋しくて、隣の人肌に熱を求めてくっついた。
仰向けで眠る裸の胸に顎を乗せて、その精悍な顔立ちを眺める。
寝顔の効果か、普段よりもその目許が幼く見えるのがなんとなく新鮮で楽しい。
いつもは彼の方が先に起きているから、なんだかんだこういう状況は貴重だ、と下ろしてある前髪をチョイチョイと指先で撫で付けた。
「ん……」
小さく寝息を漏らす口をうっすらと半開きにしたまま、彼に目覚める気配はなさそうだ。
そんな間抜け面もかわいいなぁ、なんて思うと、つい笑みが漏れる。
くつくつと笑いながら、ふざけて鼻をつまんでみれば、「む」とも「ぐ」ともつかないうめき声。
「ふは、」
クックッと忍び笑いをしていたら、突然ぐいっと頭を抱えられて、むぎゅ、と顔をその広い胸板に押し付けるかたちになった。
「……お前な」
まだぼんやりとしたままの声で、呆れたように彼が言う。
「おはよ、ドタチン」
挨拶する俺の頭をぐしゃぐしゃ撫でて、はあ、とため息。
「お前のキスで窒息死しそうになる夢を見た」
それはまた随分と甘ったるい目覚めだと、俺は声を上げて笑った。
次回があったらそうやって起こしてあげるね。そう言ったら爽やかな朝には似つかわしくないキスが降ってきて、やがてぷはっと息継ぎをした後に、仕返しも込めて俺がそうしてやるよと鼻をつままれた。
END.