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見上げる天辺には群青ばかり

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朝の澄み渡る空気の中、ほうとマルコは紫煙を吐き出した。
目線の先、遥か彼方まで視界を遮るものは存在しない。
眩しいほどに光の躍るみなもをひとしきり眺め、マルコは上空を仰いだ。
どこまでも広がってゆく青空。雲ひとつなく、近く遠いそこには距離という観念が希薄だとマルコは思う。例えば己の能力でもって遥か天上まで飛んだところで、そこにはきっと空を定義するものは何もない。あるいは、モビーに寄り添うように限りなく海面近くを飛べばそこは空なのかもしれなかった。
世界を常に包み込む大気は壮大な可能性を秘めている。
マルコは抑圧するもののない青空に、吐き出した吐息を震わせた。
海賊達が海に見るものが自由であるように、マルコにとっては頭上に広がる青空もまた同様の自由だった。
見上げた空に肌が落ち着かなくなるのは身に宿した悪魔の能力ゆえなのだろうか。腹の底から緩やかに沸き起こる可笑しさに、マルコはやんわりと目を細める。
モビーの上空はまさに何者にも不可侵な己の領空だった。触れられない青色と、触れれば忽ち呑み込む青色と。その双方に挟まれて、白ひげ海賊団は真っ直ぐに進路を取る。モビーの上空が己の独壇場であるように、白ひげの進路もまた決して侵されない領海だった。
想像の及ぶところでない偉大な航路にあって、己の指針は常に白ひげと共に在った。獣の姿に転変し、どこへ羽ばたこうと、帰還の道程を誤ったことはない。モビーから遠く離れて見上げる空はしめやかにマルコの所在を問うているのに、モビーから見上げる空はいつでもマルコを呼んでいた。その声に応えて飛ぶことは容易い。縛めるもののない宙に舞い上がり、青い空に溶け込んで水平線の遥か先まで見晴るかし、自由の風を羽毛の一つ一つにまで感じて飛翔する。だがそれでも、マルコの指針は揺らがず、そして覆らない。
全ての鳥がそうであるように、マルコは羽を休める場所を知っている。寄る辺のない旅などしなくていいのだ。たとえひと時誘惑の風に翼を撫でられようと、マルコには決して揺るがせにできぬ宿り木がある。幾度羽ばたこうとも変わらぬ永劫の止まり木が。
それが存在する限り、マルコは何があっても揺らがない。

己の全ては白ひげの為に。そして愛すべき家族達の為に。
それがマルコの全てだった。




色々なものを奪い去っていったあの戦争から半年。
日々は忙しない幾多の抗争に埋没していた。
白ひげが倒れ、その名でもって秩序と成していたあらゆる土地が世情に侵されてつまりは半年が経つ。その間各地へ散った生き残った家族たちは、マルコ同様に鎮圧に明け暮れていた。
白ひげという支柱を失った影響は計り知れない。親と、エースという末の弟と、他にも多くの家族を失った喪失感は言い知れない。取り返そうと臨んだ戦いで取り戻せなかった、マルコ達は敗れたのだ。
残されたマルコ達に出来ることは、せめて白ひげが通してきた筋を死守することだった。白ひげやエースや多くの家族達が守ろうとしたものを、死に物狂いで守るほかなかった。
そうして日々は殺伐とし、血と硝煙と怨嗟にまみれ、息をつくことも忘れてしまった。
たち込める戦塵に紛れ、青い空が顔を出す。
あの頃と如何ほども変わりない空は、マルコにはもう全く別のものになってしまった。
もうきっとあの頃のようにどこまでも飛んで行けると迷いなく思うことはないのだろう。
帰るべき家を失い、常に家に向いていた指針はどこへ向けばいいのか分からず迷子になったきりだ。
羽を休める木は今はもうない。
それでも決して、マルコの中心に座するものは揺らがなかったのだけれど。

作品名:見上げる天辺には群青ばかり 作家名:ao