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嫌われたらどうしようって(円→風)

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風丸はトラックを走っていた。
体力づくりだ、なんて言って走りこみの練習を始めたのはいいけれど、どうしても個人差が出てしまう。
大きな体の壁山や土方なんかは、やはり集団から遅れがちになってしまうし、身軽な木暮や吹雪あたりは涼しい顔で走っている。
その中でも、別格は間違いなく風丸だった。
長いポニーテールをなびかせて、とても楽しそうにトップを駆け抜けている。
きらきらと、夕陽に透ける水色の髪がコーナーを曲がるたびに大きく揺れる。
少し遅れた後ろからその姿を見つめながら、思わず(綺麗だ)なんて思ってしまう。
髪が? 夕陽が? 風丸が?
思い浮かんでしまった妙な考えに、円堂は息を飲んだ。
何を考えているんだ、練習中なのに。集中しなくてはいけない状況なのに、キャプテンがこんなことでどうするんだ。
「うっ…うおおおおおお!」
「キャプテン!? どうしたでヤンスか!?」
隣を走っていた栗松がぎょっとして飛び上がった。
「き…気合だ! 気合を入れればもっと走れるぞ!」
ぐんぐん、とスピードを上げて円堂は走り出す。目の前の髪がふわりと揺れて、風丸がちらりとこちらをうかがうのが分かった。
「そんなに熱くなることないだろー」
追い抜いた木暮が、いつものように憎まれ口を叩いてにししと笑う。
気のせいだと分かっているのに、心の中にある妙な考えを見透かされたように思えて、なんとも落ち着かない気持ちになった。
風丸と並んだ瞬間、二人の間を冷たい風が通り抜ける。
少し肌寒く感じるそれを物ともせず、風丸は嬉しそうに走っていた。
「…やっぱ、走るの、うまいなあ」
「走るのに上手とか下手とかないだろ。それを言うなら、速いとか遅いとか」
苦笑する風丸の言うことはもっともなのだが、それでもやはり円堂にとって風丸の走りは「上手い」と感じる。
名前の通り、風を味方に付けているように見えるのだ。
走るのが、好きなのだろう。
好きこそものの上手なれ、とかよく祖父に言われてきた。
だから自分はサッカーのことを何があっても大好きであろうと思ったし、実際大好きになった。
強い相手に当たると、まだまだ自分は下手だとか思うこともあるけれど、それでも大好きなサッカーにかけては誰にも負けたくないと思っている。
もし誰かにサッカーをやめろ、なんて言われても絶対に譲れないだろう。たとえそれが、サッカーと同じくらい大好きな祖父に言われたのだとしても。
だとすれば、なおさら。
どうしようもない思いにとらわれる。
本当は、風丸も走り続けていたいのではないだろうか、なんて。
陸上部をやめたことを、後悔しているんじゃないか、なんて。

合宿所の自室でごろごろとベッドの上を転がっていると、余計な考えが浮かんでは消える。
はっきりしないことは嫌いだし、悩むなんて自分らしくないとは分かっている。
けれど、なんでだろう。風丸には強気になれない自分がいる。
ちゃんと話をしなければ、前みたいに後悔することになると思うのだが、怖いのだ。
やっぱり陸上部に戻りたいとか。
サッカーは手伝いのつもりだったとか。
そんなふうに拒絶されるのが、怖いのだ。
離れてほしくないから、チームにとって必要だから、でもそれだけじゃない気もする。
大事な幼なじみだから、いつも一緒にいたいから。もう二度と、あんな思いを味わいたくないから。
コンコン、と控えめなノックで我に返る。
ふと気付けば部屋の中は真っ暗で、何時なのかすら分からない。
「円堂…って、うわ、暗っ!?」
小さく開いた扉から、廊下の光が差し込んで、ひょいと首を覗かせた風丸が慌ててすぐ側にあった電気のスイッチを押した。
「悪い、寝てたのか?」
「…か、考え事、してた」
お前のことを、とはさすがに言えず身を起こして頭をかく。
「へえ、珍しいな」
「俺だって考え事くらいするさ!」
「あはは、そうだな。キャプテンだもんな、色々と考えることはあるに決まってるよな」
「ま、まあな。それより、何か用か?」
「ああ、風呂に誘いに来たんだ。今日は走り回ったから、疲れただろ? あっつい風呂でリラックスして明日の試合に備えようぜ」
「おう!」
手早く用意をして廊下に出ると、皆もう風呂に向かったのか、それともとっくに入って部屋でのんびりとしているのか、ざわめいた気配はなかった。
思いがけず、二人きり、という単語が浮かんでどきりとする。
いやいや、二人きりじゃないし。扉一枚隔てて豪炎寺も鬼道もいるんだから。
そんなふうに思いを打ち消して、階段へと向かう。
「明日勝てば、アジア予選の決勝戦だな」
「ああ! すっげー楽しみだよな!」
「…はは、そうだよなあ。サッカーで世界に行くことになるなんて、思ってもいなかったよ」
風丸にとっては何の気なしに言ったのだろうセリフに、みっともなく体が揺れた。
手にしていた着替えを落としかけて、慌てて堪える。
「どうかしたのか?」
「いや…あの、あのさあ!」
「何だよ?」
ぴたり、と踊り場で立ち止まり、一歩先を歩いていた風丸がこちらを見上げる。
「お前、お前さ!」
「だから、何だよ?」
怪訝そうに見つめてくる彼に、何と言えばいいのか分からなくて、思わず言葉に詰まった。
陸上部に戻りたいか、なんて今更だろう。
本当は走ることのほうが好きなんだろ、とかもサッカーだって走るだろ、とか返されそうだし。
頭を使うことは苦手なのだ、いつだって。
だから、思ったことそのまましか言えない。それしか、できない。
「サッカー、好きか!?」
「…好きだよ」
ストレートすぎて脈絡のない言葉に返ってきたのは、シンプルで、でも素直な返事だった。
「俺も、好きだ!」
「知ってるよ」
だから、何だよ、って。
そりゃないだろう、一世一代の覚悟で聞いたのに。
変なやつだな、と笑われて、なんだかとても面白くない気持ちになる。
もちろん、風丸にしてみれば円堂がそんな重大な覚悟を抱いていたなんて気付くわけないのだが。
「ほんと、変なやつだよな」
「何回も言うなよ」
「まあ、そういうところも好きだけど」
ふわり、と髪をひるがえしてターンをする。
トントン、とリズミカルな音を立てて階段を降りる水色の残像を追いながら、今の「好き」は何に対するものなのだろう、と思った。