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【腐dr】手のかかる猫

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 手のかかる猫


うちには大きな猫がいる。
といっても別に飼っているわけではないし、元々このぼろアパートはペットの類は禁止されている。
こちらの都合にはお構いなしで時折ふらりとやってきてはこの部屋の主である自分以上に我が物顔で居座って、気が済めばまたいつの間にかふらりと出て行ってしまう。
そんな日々を何度繰り返しただろう。

 

今日もまた、あの猫が自分のもとへとやってきた。
 最初の頃はうちでは飼えませんとやむを得ず追い出していたのだが、懲りることなくやってくるので最近は諦めてきた。
 すべやかな黒い毛並みに、光の加減でどこか赤みがかって見える茶色の瞳がとても綺麗で。
そのせいだろうか。
自分のテリトリーを侵すことをついつい許してしまうのだ。

主を差し置いて寝そべるその猫を、本日出された課題をこなしつつ帝人は横目でちらりと盗み見る。
カリカリと音を立てるシャーペンの筆記音と時折響く紙擦れの音。
それ以外に聞こえるのは何も無く、一定のリズムを刻むはずの寝息すら聞こえてはこない。

(ずいぶん深く眠ってるのかな?)

何となく気になって、ゆっくりと音を立てないように近づく。
自分の身体が影にならないように気をつけて、そうっと顔へ指先を伸ばした。そろりと頭を撫でて、軽く頬を擽る。

(起きない、な。そんなに疲れてるのか) 

気配に敏いこの猫は、いつもなら少しでも近づこうとするとすぐさま目を覚ます。
それが今は、触れても気付かないなんて。

大きな体を小さく丸めて、むずがるように猫が小さく呻く。
その様がひどく無防備で、微笑ましくて。めったに見れないその姿についつい笑みが浮かんだ。

この猫は、とてもとてもプライドが高い。
いつもつんと澄ました顔をして外面はいいのだが、他人が触るのを酷く嫌う。
自分から触るのは平気なくせに、人から触られるのは嫌だなんて本当に我侭な猫だ。
外面が完璧なのであからさまに拒否することは無いが、滑るようにするりと巧みに逃げてしまう。
 
自分以外には。


こんな風に穏やかに安らぐ姿は、自分以外の誰かの傍では見たことが無い。
ちゃんと自分の帰る場所があるくせに、気まぐれのようにふらりとやってきては、こうやって無防備な姿を晒す。
まるで、ここでしか身体を伸ばせないのだと言うかのように。


誰にも懐かない野良・・・・・いや、プライドの高い血統書付き、といったところか。
そんな猫を、自分だけが手懐けられた悦びと優越感。
外面ばかりは良い、この扱いの難しい我侭な猫は、いつの間にかするりと帝人の心に居座ってしまっていた。








唐突に、猫が目を開けた。

「う、わ」

自分とは違う赤茶の瞳がばちりと合わさって息を呑む。
そうしてうろたえたところに軽く袖を咥えられ、引っ張られた。

「どうしたんですか?」

大して強くも無い力だが、だからこそ突っぱねることなんかできなくて、引かれるがままにその場に腰を下ろす。
そうすると猫は起き上がって、仕事など止めにして構えとでも言うように擦り寄ってくる。

「宿題、まだ終わってないんですけど」

困ったように呟くが、猫はそんな小さな苦情には耳も貸さずにぷいと顔を背けて我が物顔で膝にあごを乗せ、満足げに寝そべった。
こんな風に甘えてくるようになったのも本当に最近のことだ。
ため息を吐きつつも、そんな我侭をすでに許容してしまっている自分に苦笑する。

「少しだけ、ですよ」

苦笑しながら背中を撫でると、最初だけビクッと毛を逆立てて、その後すぐに気持ち良さそうに目を細める。
自分以外の体温が心地よくて、帝人もゆっくりと体の力を抜いた。
背中と、頭と、頬と、帝人は気が向くままに撫で続ける。
頭を持ち上げてきたので首筋を撫でようとするが、それをする前に猫はくるりと首を回らせ、撫でようとした手にすりっと頬ずりをして。そうして、やんわりと噛んできた。
 
痛くは無い。
けれど、やわく皮膚に食い込む牙や時折触れるザラリとした舌の感触に、どこかくすぐったい何かが背中にゾクっと走った。

かちりと目線が合う。
上目遣いに見上げてくるのは猫の方なのに、威圧されるのはこちらの方で。
身を起こし、ゆったりとした仕草なのに捕食者としての絶対的な力の差を見せ付けながら、猫は自分に覆い被さってきた。
肩と胸の辺りを押さえられて、圧し掛かる重さに息が詰まる。


猫というのはあまりに可愛らしすぎると、今更ながらに思う。
猫は猫でも、大型の猫科。飼われることを決して良しとはしない、誇り高い黒のケモノ。
このケモノにとって、このまま自分を食い千切ることなど造作も無いだろう。

それも良いと、時々思う。
けれど、彼はそれをしない。自分を傷つけることを好まない。それを自分も分かっているから、恐れることなどなく、ケモノへと手を伸ばす。
柔らかくしなやかな首へと腕を回して、自らの首筋へと引き寄せる。





「寝てください。ちゃんと、傍にいますから」


 
圧倒的な存在に捕食される生き物は、その恐怖すら快感となるのだろうか。








「ところで、誰が猫なのかな?」
「自覚があるようでなによりです」




作品名:【腐dr】手のかかる猫 作家名:みぃな