【腐dr】夢を見たいと願ったから①
薬漬けの夢を見る
◆
はぁ・・、はっ・・
ちゅっ・・くちゅ・・。
濡れた音と荒い息が響く。
ソファに力なく横たわる小さな体に金髪の男が覆い被さっていた。
「竜、ヶ峰・・・っ」
いつもかけているサングラスを外し、露わになった瞳を切なげに歪めながら静雄は帝人に口付けた。
ちゅっ、ちゅっ・・・。
口唇に、頬に、額に、鼻先に、何度もキスを落とす。
「好きだ・・・好きだ、竜ヶ峰・・・みかどっ」
キスの合間に愛を囁き、名前を呼ぶ。
だが、帝人はそれらに何一つ応えることはなかった。
ただただ目を閉じ、静かな呼吸をしているだけだ。
帝人は深く眠っていた。
自然な眠りではない。病気などでもない。
静雄の手によって薬で眠らされていた。
そうして眠っている帝人に己の口に出せない浅ましい想いをぶつける。
(みかどみかどみかどっ。ごめんな。こんな・・・でも、ああ。好きだ)
一体何度繰り返しただろう。
初めて眠らせた帝人に口付けたときの死にたくなるほどの罪悪感とそれを上回る幸福感に泣きたくなったのを覚えている。
何度も何度も繰り返し、慣れてしまった罪悪感は徐々に小さくなって、今ではチクリと僅かに刺さる程度になったが、胸を満たす幸福感は何度繰り返しても薄れることはなかった。
本音を言えば最後までしたい。
だが貫かれても気づかれないなんてことはあり得ないだろう。
そんなことをすれば結局は帝人を傷つけ、自分は彼に二度と触れることはできなくなる。
犯したいと暴れる欲求を深い口付けでなんとか誤魔化した。
初めて会ったのは新羅のマンションで鍋パーティーをやった時だ。
セルティの友人だと紹介されて、随分と普通な奴だと逆に驚いた。
それから何度も街ですれ違った。いや、本当はそれまでにも向こうからは何度も見かけてはいたらしい。
金髪でバーテン服にサングラスという目立つ格好の自分だ。遠目からでも見つけることはできただろう。
相手の方はといえば普通を絵に描いたような奴で、同じ来良の制服を着た中に紛れてしまえば見つけることも困難に思えた。
今までと違うのは自分が相手をセルティの友人だと認識したことだろうか。
目が合えば軽く会釈する程度だったそれが短い挨拶を交わすようになり、お前の名前なんていったっけ?なんて今更すぎる質問をする頃には時間があれば何気ない世間話をするようになった。
見かければ「静雄さん!」と弾んだ声をあげて子犬のように駆け寄ってくる彼が可愛くて、少しずつ彼と過ごす時間が増えていった。
どこにでもいるような普通の奴だと思っていたのに、いつしか彼だけは周囲に埋没することなく容易に見つけられるようになっていた。
少しずつ少しずつ、自分の中で竜ヶ峰帝人という存在が大きくなっていく。
たまの休日には待ち合わせをして、一緒に食事をして、互いの家を行き来して、たわいない会話をする。
帝人と一緒にいると穏やかになれた。
キラキラと憧れの滲む大きな瞳を向けられて、初めは戸惑ったそれに擽ったさと喜びを感じるようになったのはいつだっただろう。
幼い表情で笑う帝人が可愛くて、もっと笑ってほしいと思った。
ずっと一緒にいたいと思った。
初めてできた年下の友人だと、そう、思っていた。
仕事の休憩時間や仕事のない日にはブラブラと歩きながら来良の近くを彷徨く癖ができた。
特に何がある訳でもない。
ただなんとなく、会えたらいいなとそんな漠然とした思いがあるだけだった。
たまに本当に見かけるとそれだけで嬉しくて、だがそれを友情と呼ぶにはどこか可笑しいと気付けるほど静雄は鋭くはなかった。
また、人間離れした力をもっていても、それが恋情だと考えることもなく、どこまでもその思考は常識人であった。
その日も気付けば来良学園まで来てしまっていて、自分はそこまでこの穏やかな関係に飢えていたのかと苦笑する。
(でも、仕方ないよな)
どこまでも平凡で、穏やかな日常を感じさせてくれる希少な相手だ。
友人のセルティは良い奴だが人外だし、新羅にしても闇医者とかそういう職業を抜きにしても穏やかとは程遠い。むしろ喧しい。
誰からも恐れられる自分や人外のセルティと普通に友達付き合いが出来る時点で帝人もまったく普通ではないが、誰に対してさえ普通でいられるところが帝人の凄いところだと思う。
放課後になって校門から出てくる同じ来良の学生の中にたった一人を見つけて笑みが浮かぶ。
一度も染められたことのないだろう黒髪を短く刈り込んだ短髪。
広いおデコと大きな瞳が相まって童顔に拍車をかけていた。
私服可の来良学園で指定の制服をきっちり着込み、ピアスも何もしていない、スレてなさそうな純朴な少年。
気弱そうに見えるのに、実は静雄に対してさえはっきりと意見を述べる気の強さにも好感をもっていた。
声をかけようとして、それよりも先に帝人の体に伸ばされた腕があった。
「帝人先輩!」
弾むような声。帝人にタメ張れるような同じ童顔な少年。
先輩と呼ぶからには来良の後輩なのだろう
だがそんなことよりも、帝人の体に絡む少年の腕の方が静雄を揺さぶった。
後輩の少年に向けられる困ったような、けれど受け入れるような柔らかな苦笑。
ズンッと静雄は胸に重りを乗せられた気がした。
少年の腕を力任せに引き剥がしてこいつに触るなと叫んでしまいたかった。
力を入れて握っただけで折れてしまいそうな腕を引いて、細い体を抱きしめてしまいたかった。
(なんだ、これ・・・)
決して友人に向けるべきでない感情と衝動に静雄は信じられない思いで目を見張った。
(俺・・は、竜ヶ峰が?)
違う、と思う。
確かに竜ヶ峰は良い奴だ。
優しくて、俺みたいな奴なんかにも笑いかけてくれる。
こんな化け物みたいな力を振るっても怪我してないですか、なんて心配した声をかけてくれる。
穏やかな空気が好きだ。たわいない会話が好きだ。
だけどこれは、この想いは違う。違う、はずだ。
グラグラとふらつく頭を抑え、その場から逃げ出した。
そうでないと何をするかわからなかった。
逃げ出して、けれど気付いてしまった感情からは逃げられない。
この時から自分は決定的におかしくなってしまったんだ。
今までと何も変わらないはずの触れ合いなのに、こうも違って思えるのはこれまで気付いてなかった思いに気付いたからだろうか。
いつもの癖で気付けば帝人の触り心地の良い髪を撫でていた。
照れたようにはにかむ顔に、そんなはずないのに誘っているのかとすら思う。
頭を撫でたその手を頬に滑らせて、耳朶を擽ってやって、顔を上向かせて、そして・・・。
(駄目だっ!!なに考えてんだ俺はっ!)
こんなの間違ってる。
七つも年下の後輩に、しかも自分と同じ男だ。
それなのに、抱きしめたいと思う。
頬を撫でて、首筋をなぞって、柔らかな唇に口付けたい。
あえやかな悲鳴を聞きたい。何もかもを暴いて蹂躙して、全てを自分のものにしてしまいたい。
彼が欲しいと思ってしまった。
理性や常識といったものは以前と変わらずに自分の中にあるのに、それが尚更自分の異常性を知らしめる。
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はぁ・・、はっ・・
ちゅっ・・くちゅ・・。
濡れた音と荒い息が響く。
ソファに力なく横たわる小さな体に金髪の男が覆い被さっていた。
「竜、ヶ峰・・・っ」
いつもかけているサングラスを外し、露わになった瞳を切なげに歪めながら静雄は帝人に口付けた。
ちゅっ、ちゅっ・・・。
口唇に、頬に、額に、鼻先に、何度もキスを落とす。
「好きだ・・・好きだ、竜ヶ峰・・・みかどっ」
キスの合間に愛を囁き、名前を呼ぶ。
だが、帝人はそれらに何一つ応えることはなかった。
ただただ目を閉じ、静かな呼吸をしているだけだ。
帝人は深く眠っていた。
自然な眠りではない。病気などでもない。
静雄の手によって薬で眠らされていた。
そうして眠っている帝人に己の口に出せない浅ましい想いをぶつける。
(みかどみかどみかどっ。ごめんな。こんな・・・でも、ああ。好きだ)
一体何度繰り返しただろう。
初めて眠らせた帝人に口付けたときの死にたくなるほどの罪悪感とそれを上回る幸福感に泣きたくなったのを覚えている。
何度も何度も繰り返し、慣れてしまった罪悪感は徐々に小さくなって、今ではチクリと僅かに刺さる程度になったが、胸を満たす幸福感は何度繰り返しても薄れることはなかった。
本音を言えば最後までしたい。
だが貫かれても気づかれないなんてことはあり得ないだろう。
そんなことをすれば結局は帝人を傷つけ、自分は彼に二度と触れることはできなくなる。
犯したいと暴れる欲求を深い口付けでなんとか誤魔化した。
初めて会ったのは新羅のマンションで鍋パーティーをやった時だ。
セルティの友人だと紹介されて、随分と普通な奴だと逆に驚いた。
それから何度も街ですれ違った。いや、本当はそれまでにも向こうからは何度も見かけてはいたらしい。
金髪でバーテン服にサングラスという目立つ格好の自分だ。遠目からでも見つけることはできただろう。
相手の方はといえば普通を絵に描いたような奴で、同じ来良の制服を着た中に紛れてしまえば見つけることも困難に思えた。
今までと違うのは自分が相手をセルティの友人だと認識したことだろうか。
目が合えば軽く会釈する程度だったそれが短い挨拶を交わすようになり、お前の名前なんていったっけ?なんて今更すぎる質問をする頃には時間があれば何気ない世間話をするようになった。
見かければ「静雄さん!」と弾んだ声をあげて子犬のように駆け寄ってくる彼が可愛くて、少しずつ彼と過ごす時間が増えていった。
どこにでもいるような普通の奴だと思っていたのに、いつしか彼だけは周囲に埋没することなく容易に見つけられるようになっていた。
少しずつ少しずつ、自分の中で竜ヶ峰帝人という存在が大きくなっていく。
たまの休日には待ち合わせをして、一緒に食事をして、互いの家を行き来して、たわいない会話をする。
帝人と一緒にいると穏やかになれた。
キラキラと憧れの滲む大きな瞳を向けられて、初めは戸惑ったそれに擽ったさと喜びを感じるようになったのはいつだっただろう。
幼い表情で笑う帝人が可愛くて、もっと笑ってほしいと思った。
ずっと一緒にいたいと思った。
初めてできた年下の友人だと、そう、思っていた。
仕事の休憩時間や仕事のない日にはブラブラと歩きながら来良の近くを彷徨く癖ができた。
特に何がある訳でもない。
ただなんとなく、会えたらいいなとそんな漠然とした思いがあるだけだった。
たまに本当に見かけるとそれだけで嬉しくて、だがそれを友情と呼ぶにはどこか可笑しいと気付けるほど静雄は鋭くはなかった。
また、人間離れした力をもっていても、それが恋情だと考えることもなく、どこまでもその思考は常識人であった。
その日も気付けば来良学園まで来てしまっていて、自分はそこまでこの穏やかな関係に飢えていたのかと苦笑する。
(でも、仕方ないよな)
どこまでも平凡で、穏やかな日常を感じさせてくれる希少な相手だ。
友人のセルティは良い奴だが人外だし、新羅にしても闇医者とかそういう職業を抜きにしても穏やかとは程遠い。むしろ喧しい。
誰からも恐れられる自分や人外のセルティと普通に友達付き合いが出来る時点で帝人もまったく普通ではないが、誰に対してさえ普通でいられるところが帝人の凄いところだと思う。
放課後になって校門から出てくる同じ来良の学生の中にたった一人を見つけて笑みが浮かぶ。
一度も染められたことのないだろう黒髪を短く刈り込んだ短髪。
広いおデコと大きな瞳が相まって童顔に拍車をかけていた。
私服可の来良学園で指定の制服をきっちり着込み、ピアスも何もしていない、スレてなさそうな純朴な少年。
気弱そうに見えるのに、実は静雄に対してさえはっきりと意見を述べる気の強さにも好感をもっていた。
声をかけようとして、それよりも先に帝人の体に伸ばされた腕があった。
「帝人先輩!」
弾むような声。帝人にタメ張れるような同じ童顔な少年。
先輩と呼ぶからには来良の後輩なのだろう
だがそんなことよりも、帝人の体に絡む少年の腕の方が静雄を揺さぶった。
後輩の少年に向けられる困ったような、けれど受け入れるような柔らかな苦笑。
ズンッと静雄は胸に重りを乗せられた気がした。
少年の腕を力任せに引き剥がしてこいつに触るなと叫んでしまいたかった。
力を入れて握っただけで折れてしまいそうな腕を引いて、細い体を抱きしめてしまいたかった。
(なんだ、これ・・・)
決して友人に向けるべきでない感情と衝動に静雄は信じられない思いで目を見張った。
(俺・・は、竜ヶ峰が?)
違う、と思う。
確かに竜ヶ峰は良い奴だ。
優しくて、俺みたいな奴なんかにも笑いかけてくれる。
こんな化け物みたいな力を振るっても怪我してないですか、なんて心配した声をかけてくれる。
穏やかな空気が好きだ。たわいない会話が好きだ。
だけどこれは、この想いは違う。違う、はずだ。
グラグラとふらつく頭を抑え、その場から逃げ出した。
そうでないと何をするかわからなかった。
逃げ出して、けれど気付いてしまった感情からは逃げられない。
この時から自分は決定的におかしくなってしまったんだ。
今までと何も変わらないはずの触れ合いなのに、こうも違って思えるのはこれまで気付いてなかった思いに気付いたからだろうか。
いつもの癖で気付けば帝人の触り心地の良い髪を撫でていた。
照れたようにはにかむ顔に、そんなはずないのに誘っているのかとすら思う。
頭を撫でたその手を頬に滑らせて、耳朶を擽ってやって、顔を上向かせて、そして・・・。
(駄目だっ!!なに考えてんだ俺はっ!)
こんなの間違ってる。
七つも年下の後輩に、しかも自分と同じ男だ。
それなのに、抱きしめたいと思う。
頬を撫でて、首筋をなぞって、柔らかな唇に口付けたい。
あえやかな悲鳴を聞きたい。何もかもを暴いて蹂躙して、全てを自分のものにしてしまいたい。
彼が欲しいと思ってしまった。
理性や常識といったものは以前と変わらずに自分の中にあるのに、それが尚更自分の異常性を知らしめる。
作品名:【腐dr】夢を見たいと願ったから① 作家名:みぃな