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夢見る銀河鉄道/同人誌サンプル

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※サンプルはWEB用に改行を入れてあります





薄暗い討ち入りの晩、沖田がその隊士を斬ったとき、押し込んだ刃がどうしても止められなくてそのために大きな血飛沫を上げる結果となった。彼と、その背後にいたテロリストの女性を死なせたのが、吹く風の冷たい真夜中。



数時間にわたる討ち入りも、ようやく終着のきざしを見せ始めたころのことだった。

突然の出来事にみんな息を飲み、沖田だって目を丸くした。刺した刀が深く沈みこむ感覚を手の中へ受け止め、ああ、やってしまったな、と思った。

人を死なせて汚れるのなんて、これまでにいくらでもあったことだ。
けれど、よく知る彼の血を浴びた瞬間、息の止まるような嫌悪が背筋を駆け上って一気に冷えた。こういう感覚はずいぶんと久し振りで、沖田は顔を顰める。

「医療班!」

よく通る近藤の声が後ろの方でしたけれど、きっと誰もが「もう駄目だな」と分かっていた。死んだものと生きているものとは、例え死にざまが眠るようであったとしても、一目で違うものだと分かるのだ。男女ふたり分の亡骸と、駆けつけた隊士たちを前に、沖田は刀を提げたまま立ち尽くした。



隊士はまだ年若く、沖田の大事な一番隊の配属で、心根がやさしい男だった。討ち入りの前はいつも少し寂しい表情を浮かべ、それでもひどく腕が立つために、前線に置かれた。

沖田には見えていたのだ。
女を後ろから貫こうとしたとき、彼が自分の切っ先に飛び込んできたのも、それが真っ直ぐに隊服の胸を刺したことも。それでも、手を止めるわけにはいかなかった。彼女が手にしていた火種が、今にも、爆弾の導火線に触れそうだったので。

これは、さすがに堪えた。
心の中へひとつもの準備をせず、直接の部下だったものを斬ったのは、この度が初めてのことだった。

ぼんやりとしていた沖田の手を、強い力で後ろへ引いた者があった。ふらついて数歩後ずさり、顔を上げると、こちらを見下ろす灰色の瞳と目が合う。




「……土方さん」

名前を呼んだ沖田に向け、土方は眉を顰めたが、それだけで決して何も言わなかった。
代わりに、沖田が刀を提げた方の手へ、その冷たい指で触れた。


沖田の手の上から柄を握り、赤く濡れた刃を懐紙で拭う。そうしてそのまま、刀を鞘に戻すところまでを手伝ってくれる。沖田は右手の力を殆ど抜き、まるでいいこの人形みたいな素直さで、されるがままに腕を持ち上げ、愛刀をきちんと仕舞う。

そうして、なんだかぼやける思考の隅で、土方の頬にも血がついていることに気が付いた。
輪郭へ手を伸ばし、親指を真横に引いてそれを拭ってみるけれど、血の跡は鉄さびた赤い線になって擦れただけだ。こんな手で人をどうにかしようなんて望んだって、そんなものは駄目に決まっている。そのことに遅れて気が付いて、沖田は手を離した。




それでお終い。




そういえば、斬ってしまった彼の故郷は、我々と同じ武州の遠い村なのだと聞いたことがあったっけ。どうしてか不意に、そんなことを思い出していた。




この日に彼を殺してしまったことをきっかけに、沖田は数日後のとある夕暮れ、土方と共に短い列車の旅へ出ることになるのだ。
それはまだ、この国に秋の気配が息づきはじめたばかりである、肌寒い三日月の夜のことだった。










夢 見 る 銀 河 鉄 道




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(サンプル2)
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「残念でしたねィ、土方さん」
「あ?」


愉快なことの気配をありありと汲み取ってそう言うと、隣に立っていた着流し姿の土方は怪訝そうに眉を顰めた。沖田が楽しそうなものだから、それを不審に感じたのだろう。銜え煙草で、くぐもった声のまま疑問を口にする。

「あにが」
「ここ。端っこ」

手にしているのを突き付けて、それからきちんと分かるように指を差してやった。切符の隅には煙草に大きなばつの付いた、近ごろよく見る禁止令のマークが捺されている。



「何処まで行ったって、車内は全席禁煙ですって」
「……」



何せ、目的地はずっと遠い武州の地だ。土方がこれからさぞかし辛い我慢をするのだと思うと、沖田は心底からにこにこと微笑みたい気持ちになる。反面、土方の方は露骨に顔を顰め、「分かってるよ」と苦々しい声音で吐き捨てた。

今月からこんなにも値上がりした上、吸える場所だって随分と減って、それでも煙草に縛られているのだから土方は可哀想。もちろん吸い難い環境への同情ではなく、何度もやめると言っておきながらここまで来てしまった現状について、沖田はしんみりと考える。それから自分の横髪をちょんと摘み上げ、すっかりうつってしまった煙草の匂いに眉根を寄せながら、口を開いた。


「武州くらいの遠さなら、土方さんだけ車で行けばよかったのに」
「冗談じゃねー。何時間掛かると思ってんだ」
「じゃあ、武州くらいの遠さだし、別に土方さんまで来なくてもよかったのに」
「あのな」


呆れ返った目で叱られて、くちびるを尖らせる。
むっとしたから、こちらに漂ってきた煙をあたかも追い返すように吹いてやった。そうすると土方は片眉を上げ、そのあとで、今吸い込んだばかりの煙をこちらの鼻先へふーっと吹きかけてくる。思わずこんこんと咳き込んで、顔を顰めた。


「……そんなことしたって、俺の肺はあんたのものにはなりやせん」
「お前が指一本、例え一瞬でも俺のものになったことがあったかよ」
「そう思ってるにしちゃあ、土方さんは我が侭だ」


第一に、性交のときはまるで自分のものみたいに好き勝手をするくせに。沖田は憮然としながら、肩からずり落ちそうになった旅行鞄の紐を掛け直す。


この旅は、たった一泊の短い遠出だ。それならばもちろんのこと、鞄も軽い。



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