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スキマスイッチの「キレイだ」でドタイザ

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ねえ一緒に住もうよ、そう持ちかけたのは、あの忌々しい来神学園を卒業することが確定した高校3年の1月のことだった。なんとなく3年間つるみ続けた俺たち4人(シズちゃんが入っているのが忌々しいことこの上ないが)はだれも進学という道を選ばず、かといってどこかに就職するということもなく、ただヒマなだけの自習期間なんかが1ヶ月以上も続いていた。人もすくなくてやることもない。おもしろくない。隣に座るドタチンはそんな俺の愚痴を聞き流しながらボールペンを延々くるくると回していた。ねえそれおもしろい?と聞くと、いやべつに、と返ってくる。心地よい低さのその声は必要以上の言葉を紡がない。俺とは正反対だ。昼間の明るい日差しを受けて、いっそう影を増す頬を眺めて、俺はふと思いつきを口にした。ねえドタチン、卒業したらさ、俺と一緒に住まない?彼は別段驚くこともなく落ち着いた色合いの瞳をちらりとこちらにやって、俺は構わねえが親御さんは心配しねえのか、と言った。さすが、と拍手を送りたくなるほどにドタチンらしい言葉だった。俺の親御さんは大丈夫だよ。ドタチンは?と聞くと、聞くなよ、と言って彼はあたたかな笑顔で俺の頭をくしゃくしゃにした。俺はそれが嬉しくて声をたてて笑った。



そんなふうに始まった俺たちの生活はしかし1年も保たなかった。いい加減にしろよ、という彼の抑えた怒鳴り声を思い出す。なんでおまえは、そこでいつも彼は、こらえるように言葉を飲み込む。なんでおまえは、どうして、・・・なに?つづきは?聞いても彼は、いや、いい、もういい、と顔をそむけてだまりこむばかりだった。彼はきもちを言葉にすることをしない、俺は大切なことは言葉にできない。ああ、本当に思い返すばかりに正反対な二人だった。なにもかもが思い通りにいかなかった。彼の乱暴な手つきを思い出す。俺を暴く手はいつも乱暴だった。やさしい彼が俺につらくあたらなければならなかった、その理由を思うたびに、俺は彼のやさしさに涙がこぼれそうになる。俺が泣くなんて信じらんない?ねえでもほら、この頬を伝うのはたしかに涙でしょう?俺だって泣くんだよ。ただの人間なんだよ。


ねえドタチン、君の望むとおりに生きられなくてごめんね、でも俺はこういう性格で、こういうふうにしか生きられない。それでいいじゃないってなぐさめてみても君が居なけりゃ空しいだけだ。君と過ごしたこの空間は今、君を失って意味も無くして、ただ朝の光を受けながらぼんやりと輝いている。床や机に余すとこなく詰まれたインスタントのゴミをかきわけてここへ越してきたとき記念にとねだって撮らして貰った写真を取り出す。写真の君は太陽がまぶしいと顔をしかめていて、だけどとてもうつくしく、だれよりうつくしく輝いている。そんなキレイな君はもういない。もうここにいない。俺の涙を知ることもない。さようなら、さようなら、きっと君ともういちどなんてことはないだろう、だけど俺はちょっと期待してしまうんだ、こうしてみっともなく息をしつづけていたらいつか君が俺を見つけてくれるんじゃないかって、もういちど俺と同じ時間を過ごしてくれるんじゃないかって、だからいつまでもこの写真は破けなくて俺はずっとこのままだ。



ねえドタチン、君は俺が変わったら、そしたら俺を愛してくれたのかな?答えのわかりきった疑問をつぶやいてみて自分で笑う。答えはまさかだ。愛したくても愛せやしない、俺が俺であるかぎり。だけどね、ドタチン、俺はドタチンのこと、・・・自分で言ってばからしくなって、俺はほったらかしにしていた携帯を手に取った。ドタチンからの着信はもちろんない。ふふ、と笑って通話口に用件を簡単に告げる。さあ、業者さんが来る前にこのゴミの山を片付けておかないと。ドタチンがいなくなってから俺が自分を生かすために買い込んだインスタントはもうすべて胃に収めきっていた。これから先、もう二度と俺はインスタントで食いつなぐことをしないだろう。だってこれは失恋記念だ。俺はドタチン、君の手料理が大好きだった。いつかもういちど君の手料理が食べられる日まで、インスタントはお預けだ。さよなら、俺の愛しい日々。さよなら、俺のドタチン。カップラーメンやレンジでチン系の燃やさないゴミを詰めた黒い袋を手に、俺はコートを羽織って、振り返ることなくその部屋を出た。バタン、と音を立てて閉じた扉が、俺たちの関係を象徴しているような気がして、またすこし、涙がにじんだ。