スパコミ新刊サンプル
その一団の中にいたソランは、きっとこれは昔見た葬列のように見えるだろう、と思った。静々と道を進んでいく、黒い柩と項垂れた人々で構成された一団を見たのは、今よりもっと子どもの頃、一度きりだったが、今でも、とても良く憶えていた。まだ生きていた母と一緒だった。あれは一体誰の葬列だったのだろうか？
すぐ後ろで機関銃を抱え直す小さな音が聞こえて、思考は再び現実に戻る。砂漠の夜は耳が痛くなるほどに静かだった。
この世界に神はいない。
あるのは、強者と弱者というごく現実的な序列だけである。それは、ソランにとって、どうしようもないほどの事実だった。
そして、ソランにとって不幸なことは、彼は、弱者であり搾取を受ける側に生まれついて、かつ、それに気付いてしまう程度には聡明だったことだろう。
砂漠の葬列を進みながら、ソランは、母の言葉を思い出す。
『どうして？』
強くなりたかった。搾取されない側になりたかった。それ以上の理由はなかった。けれどそうして選んだ道も、実際はただの現実の縮図に過ぎず、そこでも自分は、搾取され奪われる側に過ぎなかった。
おそらく、次の場所での戦闘は、負けるだろう。
これは、項垂れながら、強い者に決められた死ぬための道筋を粛々と歩くしかできない、弱者達、自分のための葬列なのだ。
ただ、強くありたかっただけのはずなのに、なぜ、こんな事になってしまったのか。しかし、これが自分が選択してきた結果なのだ。
ソランは自分の死を、思う。
想像の中のソランの身体は水溜まりの中にうち捨てられていて、その、ぽっかり空いた眼窩から蛆がわき出していた。身体の半分は吹っ飛んで、至る所から血が流れていた。今まで幾度もなく見た死体の顔だけが自分にすり替わっているだけだった。
過去が課程に過ぎない以上、自分の選択に後悔は無いが、それとは全く別の感情で、ソランは、ほんの少しだけ、それは嫌だな、と思った。
わき出る蛆がまるで涙のように見える気がしたからだ。
ただ、おそらく、否応なく、自分は、想像通りの死体になるだろう。
夜明け前、葬列が石造り街にたどり着いた。遠い東の空が白み始めていた。もうまもなく、戦闘が始まる。持ち場で、銃を抱えながら、せめて頭が上手く吹っ飛んでくれればいい、とソランはそのことばかりを考えていた。
そして、その日、ソランは、なりたかった「なにか」を、見つける。
（プロローグ 砂漠の葬列）
作品名：スパコミ新刊サンプル 作家名：りこ