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「魚の呼吸音」(1010新刊サンプル)

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 いつの間にか本格的に雨が降りだしていた。
 秋を通り越えてまるでもうすっかり冬だというように、肌寒い空気が背筋を震わせる。
 つい先日までは延々といつまでも続いているように思えていたあの暑さがまるで嘘のように、気温は急激に下がっていた。作業画面の脇に小窓で表示していた天気予報は繰り返し似たような警報を表示している。勢い良く駆け足に、季節は終盤へと転がり始めていた。
 数日前から、そういえば本格的な嵐が秋を運んでくると言われていたような気もするけれど、あの真夏並みの暑さのなかでは信じているひとのほうが少なかっただろう。記録的な猛暑だと一言にいわれても去年の夏がどのくらい暑かったかなんて正確に覚えている筈もない。それでも扇風機くらいは導入しないと危険じゃないかと、さすがにそろそろ思いもしていたのだ。
 もう九月も半ばを過ぎるというのに熱帯夜が続いているなんてほうが、考えてみれば何処かおかしかったのだろう。それでもここまで軽やかに世界は、まるでカーテンをひくように簡単に変わっていくものなのだろうか。
 幾つかの業務メールに返信して、それから一通りダラーズのサイト内を巡回したところで軽く背を伸ばすと、ぱきぱきと身体の奥から何かが外れるような音が響いている。小雨に降られて逃げるように学校から帰ってきた所為で珍しくご飯も風呂もとっくに済ませているとはいえ、没頭している間に随分と夜も深くなっていたらしい。
「あれ、もうこんな時間」
 終電も終わったのか、踏切の音はそういえば暫く耳にしていないような気もする。微かに痛む目許を抑えると、視界が薄く滲んだ。
 念のためにと箪笥の奥から引っ張り出したまま脇に積んでいた上着を引っ掛けて、それからインスタントコーヒーでも淹れようかと立ち上がると、古い床が微かに悲鳴をあげる。欠伸混じりに視線を変えると、どうしてそんなところを選んだのか後輩がひとり、部屋の片隅で丸くなっていた。



(1.雨樋を叩く風の話)