【デスノ】失楽園【Lミサ】
しかし私はアダムでもなければエバでもなく、只の蛇だった。
其処にはアダムがいて、エバがいた。
エバは金色の髪を携えた美しい少女だった。
私はエバを愛していた。
「この楽園を出ましょう」
私は云った。
エバは問うた。
「何故?」
私は答えなかった。
答えることが出来なかった。
蛇が人間に嫉妬しただなんて。
まさか云えるわけがない。
それでもエバは私について来た。
楽園の外は不毛の大地だった。
私は蛇なので、なんとか食料を見つけることが出来たが、楽園しか知らないエバ――しかも彼女は人間だ、は食べるものも無く、次第に痩せ衰えていった。
そしてとうとう、彼女は動かなくなってしまった。
私が彼女を殺したのだ。
愛していたのに。
そこでいつも目がさめる。
「弥、海砂」
夢のことを思いだしていた私の耳が、その単語だけを拾った。
月くんの声だ、私はそのことに気が付き、何の気はなしに顔を上げる。
そこにいたのはエバだった。
私の夢に出てくる、最初の女。
鮮明に思い出す、夢の中の女。
「……エバ…、」
私は思わず呟いた。
月くんはその言葉に、不思議そうに首をかしげた。
月くんに腕を絡ませている少女、海砂にはどうやら聞えていないようだった。
私は何でもありません、と云った。
それから三十分ぐらい経った頃だろうか、徐に月くんが立ち上がり、続いて海砂も立ち上がった。
私が不思議そうな顔をしていると、笑って月くんはデートの途中だったんだ、と云った。
私は二人を見送った。
すれ違いざま、海砂がなにやら呟く。
「 」
私はその言葉を聞きとることができなくて、只ぼんやりと彼女の唇を眺めていた。
禁断の果実の色をした、唇を。
私が勧めた果実を食んだ、その唇を。
彼女の後姿を眺めながら、彼女が何を云ったかを私は考えた。
さ
よ
な
ら
「さよならダーリン」
ああ、私は彼女がなんと云ったか了解した。
そしてその瞬間、世界は暗転した。
私は愛していたのに殺した。
じゃあ、君も愛しているのに殺すのですね。
さようなら、私の愛しい、
作品名:【デスノ】失楽園【Lミサ】 作家名:おねずみ