【十二国記】トワイライトシンドローム【利珠】
「綺麗ね。」
膝を抱え、いつもより幾分控えめな声で珠晶は云った。
利広は無言で頷く。
「でも、この美しさもいつかは無くなってしまうのよ。いいえ、いつかなんて漠然とした未来じゃないわ。私が死ねば無くなってしまう」
王宮から見える夜空は、街の明かりが煌いて幻想的だ。
それは幻想的な姿にふさわしく、王のに死とともに消え行く。
その事を思うと珠晶は胸が痛んだ。
終わる事の無い王朝なぞ無いと知っているのに。
「終わりがあるから、美しいんじゃないのかな」
珠晶を抱き上げながら、利広は云った。
二人はさらに雲海へと近づく。
「終わりがあると思うと、その終わりまで一生懸命頑張ろうと思う。だから全てものは美しさを携えているのだと私は思うよ」
だから、そう云って利広は珠晶の髪を撫ぜる。
「だから、君は街が滅ぶ事に罪悪感を感じたりしなくていいんだよ。」
「人々も、生命に終わりがあることを承知している。そうでなかったら産まれてくる事なんか出来ないだろう?」
利広の穏やかな口調に、珠晶は泣きそうになった。
涙が零れないように瞼を閉じる。
利広は珠晶の瞼に口付けた。
作品名:【十二国記】トワイライトシンドローム【利珠】 作家名:おねずみ