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【米英】and I love you

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「ねえ、イギリス。あいってなに?」

 リビングのカーペットに寝転がって絵本を読んでいたアメリカが、不意に振り返ってそう云った。
「え?」
 突然の質問に俺はぽかんとして、ハンカチに施していた刺繍の手を止める。
「ええとね、これ!」
 アメリカは元気良く起き上がると、絵本を手に俺の座っているソファに駆け寄って来た。うんしょ、と云いながら俺の隣に乗ろうとするので、ハンカチをテーブルに避けてからアメリカを抱き上げる。膝の上に横向きに座らせて「この本がどうかしたのか?」と尋ねると、アメリカは絵本を開いた。何回かページをめくってから「これだよ」とある一点を指差す。
「この字、よくでてくるんだけど、意味がよく分かんないんだ」
「アメリカにはまだ難しかったかな。どれどれ」
 云いながら覗き込む。アメリカが示しているところには、“LOVE”の文字があった。
「あいするって、どういうこと? イギリスは分かる?」
「……そうだな、愛というのは――」
 答えかけて、俺は思い出した。己が愛を知らない者だっだということを。


 その昔、俺は愛がどんなものか分からなかった。それは俺が誰かに愛された記憶がなかったからだ。
 兄を始めとする周りのおとなたちは、隙があれば俺を殺そうとするか、俺を利用しようとするかのどちらかだった。
 俺は彼らを蹴散らすことで強くなっていった。やがて敵は滅びたが、俺はすっかり疲れてしまった。そしてとても寂しかった。誰も俺を必要としない、それを日々感じるようになった。
 俺は何かを埋め合わせるように領土を拡大することに没頭していった。そうしている間は気を紛らわせられる。新しい土地を巡ってフランスと戦うのも悪くはない。そうして歪んだ平穏を手に入れようとしていたとき、俺はアメリカに出会った。

 今日からお前は俺の弟だ、そう告げた俺に、何も知らない無垢な魂は、澄んだ笑顔でうんと頷いた。そのときの俺の衝撃と云ったらなかった。殺し合い、戦い合うことしか知らなかった俺にとって、アメリカは暗闇に差す一寸の光のような存在だった。どうしても手に入れたい、そう俺が願ったのも道理というものだろう。それからフランスと奪い合ったが、結局、初めにした口約束の通り、アメリカは晴れて俺の弟になった。
 不安がなかったわけじゃない。
 ちいさなちいさなアメリカ、俺は彼を愛せるだろうか。愛を知らない俺でも、この子どもを慈しむことが出来るだろうか。
 その想いはけっしてちいさくはなかったが、とにかくやるしかなかった。


「イギリス?」
 名を呼ばれて我に返った。見ればアメリカが突然物思いに耽ってしまった俺を、不思議そうな目で見上げている。
「ああ、ごめんな」
 頭にぽんと手を置いて、話を再開する。
「そうだな、愛ってのはな……その人がたまらなく大事で、愛おしく思う気持ちかな」
 余計分からなくなったようで、アメリカは首をかしげた。
「いとおしく?」
「んー、簡単に云うと、好きってことだ。好きは分かるだろ?」
「ん、分かるぞ。おれ、イギリスがすきなんだぞ!」
 はっきりと云われて、つい笑みが漏れる。アメリカはほんとうに良い子だ。
「そうか、俺もアメリカが好きだよ」
 その頭を優しく撫でながら云うと、アメリカも嬉しそうに笑う。その顔に癒されながらも俺は続けた。
「うん、でもな、愛はもっとたくさんたくさん好きってことだよ」
「すきよりももっと?」
 驚いた声が返る。俺は頷いた。
「あぁ。好きじゃ足りないくらい、大好きで仕方ないこと。それが愛だ」
 するとアメリカは顔をしかめて、ううんとうなった。やっぱりまだ早かったかな、と苦笑しかけたが、そのとき、はっと何かに気付いた様子で俺を見た。
「じゃあ、さっきのはまちがい」
「え?」
 さっきのって何が、と聞こうとする俺に、言葉が被せられる。
「だったらおれ、イギリスをあいしてるぞ!」
「……」
「イギリスのこと、たくさんたくさんすきだぞ。……へん?」
 呆然と見つめていると、おずおずといった様子で尋ねられた。使い方がおかしかったのかと思ったようだ。俺はふるりと首を振って、両手をそのちいさな身体へと伸ばす。
「変じゃない。……変じゃないよ、アメリカ」
 ぎゅっと抱きしめたアメリカは温かく、確かな鼓動が波打っていた。俺たちが出会ったあの日から、どのくらいのときが流れただろう。あのときに与った命はまだちいさいが、着実に成長を続けている。
「ありがとう。俺もお前を愛してるからな」
「イギリス、どうしたの。ないてるの?」
 気づけば涙ぐんでいて、声が震えていた。顔は見えなくてもそれを機敏に感じ取ったアメリカが心配そうに聞くが、泣いてないよ、と俺は答える。

 ああ、可愛い俺のアメリカ、お前は俺の醜さを知らない。純粋なお前がそれを知ったとき、俺をどう思うだろう。失望するか、軽蔑するかもしれない。
 だけど俺は誓う。なにびとが攻め入ろうとも、身を挺してお前を守ってやる。強風に曝されようとも、このちいさな光をともし続けよう。大事に育んでいくんだ。生まれて初めて俺に愛を教えてくれた、このあたらしい命を。
 だからアメリカ、きっと俺はお前を愛し続けるよ。
 たとえこの先、俺たちの行く末に何が待ち受けていようとも。

(了)