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朝は、キライ

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今日もテレビの中の名取さんは無駄に無意味に煌めいてました。

全国ネットの朝の連続テレビ小説なんていう大昔から世の中の皆様が惰性で見ているような、そんなものなんかにレギュラー出演なんかしているから。嫌でも朝から名取さんの顔を拝んでしまう。名取さんの顔なんて見たくないから、他のチャンネルに変えたくてもそれはできない。言いだせないというのもある。だけど、朝の時間のテレビなんてまともに見るというより時計代わりだ。8時になればニュースが始まり、8時15分で見たくもないドラマ枠。そして8時半になったら気象情報だのをちょこっと挟んで8時35分になったら主婦向け生活番組というか観光スポット紹介だのグルメだの健康だの、まあそういう情報番組になる。おれにとってはどうでもいいけどだけど。ドラマが終わったら滋さんは会社に行く。おれも学校に行くのにそのくらいがちょうどいい。ドラマ終わってすぐ家出ればのんびりめに歩けばいいし、主婦向け情報番組が始まっちゃえばちょっと急ぎ目で行けばいい。こんなちょうどいい期間刻みで番組が変わる。だから他のチャンネルに変える理由がない。
……理由が、ない、わけじゃない。だけど、朝からこんな無駄に煌めきまくってる名取さんを見たくないんですなんてそんなこと言ったら滋さんも塔子さんも何かあったのかって心配するだろう。喧嘩でもしたの?とか言われるのは目に見えている。
だから、おれは。文句の一つも言わないで黙ったままもぐもぐと朝ごはんを食べ続ける。
ふっくらと炊かれたご飯に鮭の塩焼き。お味噌汁があったかくて美味しいし、塔子さんが最近凝っている自家製の漬物なんかもっと食べたいってくらいだって思うのに。味わうこともしないで急いで食べる。
「ゴチソウサマでした」
ドラマ、始まったばかりだけどオレはもう席を立った。
「あら、もう良いの?おかわりは?」
「はい。美味しかったです。今日は…ちょっと、宿題でわからないところがあったから北本とかと答え合わせしておこうかと思って」
だから早めに学校行きますなんてちょっと嘘。宿題なんてどうでもいい。テレビの中の名取さん。その鬱陶しい笑顔見たくない。主人公の男の人とヒロインの女の人の姿をそっと陰から見守る主人公の親友役の名取さん。今日も報われないと思いつつヒロインの相談に乗っている名取さん。親友とヒロインがくっつくのは時間の問題だと思いつつ、切ない思いを秘めてるんだってさ。今も、主人公のことを諦めそうになっているヒロインに笑いかけて大丈夫だよ頑張ってなんて言ってるし。
それを聞きながらおれはばたばたと自分の部屋に行ってカバンを取る。
あー……、なんかもやもやするんだけど。
もっと言えばむかむかするんだけど。せっかくの朝ごはんもこのところ毎日のように名取さんを見てるから、味わうことなんてできずにいる。
せっかくの朝ごはん。塔子さんの心づくしだっていうのにな。
朝からこんな気分になるの、名取さんのせいですからね。
なんかこう胸の中に薄暗い靄がある感じがすごく嫌だ。
だから。
ドラマの中の名取さんは胡散臭いからキライです。なんてちょっとばかり無神経なメールを送ってみる。
そしたら即座に返信メールが返ってきた。

『大丈夫。あれは演技だから。私が本気で想っているのはヒロインじゃなくて夏目だけだから安心して』

見た瞬間にケイタイを閉じる。顔が赤い。耳まで赤い。八つ当たりで速攻携帯を投げたかったけど壊すとマズイから電源オフ。今度名取さんに会ったらとりあえず殴っておこう。

ホントにおれは。名取さんがキライ……です。



‐ 終 ‐
作品名:朝は、キライ 作家名:ノリヲ