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　よく晴れた日、見上げた太陽が真上よりほんの少しばかり海へ寄って傾いた頃。元親は、瀬戸海へ出てみないかと元就を誘った。
「今日はあの男共は来ぬのか」
　元就の口にする、あの男共、というのは、元親にとっての野郎共を意味している。野郎共ってんだ、と元親が教えても、元就は頑としてそうは呼ばないのだ。
「ああ、来ねェ。今日は俺とあんたとで出よう」
「二人でか？」
「そうだが……。毛利、もしかしてあんた、俺が帆船を出そうとしてるんじゃあないかと思ってんのか？」
　妙に訝しむ元就に訊き返せば、違うのかと真剣な顔をして言う。
「あんた、こういう時は小舟出すんだぜ！　まさかこれも知らねえって言うんじゃあねえだろなァ！」
　元親が豪快に笑って返すのを睨んで元就がぶつくさ言い始めるも、その間に元親は浜に用意しておいた小舟を力一杯押し、打ち上げる波へ乗せようとしていた。
「知らぬぞ。何故前もって知らせなかったのだ、我はな……」
「へえへえわかったわかった、わかったからあんたも手伝え」
「ふん」
　手を貸してなるものかと腕を組んで浜に仁王立ちする元就を見、もう少しほぐれてはくれないかと深い溜め息を吐く元親であった。
　小舟を波に乗せ沖へ漕ぎ出ると、太陽は更に海の近くに傾いていた。日没もそう遅くはないであろう。
　元親が櫂で水を掻くのを止めれば、木製の小舟は波に全てを任せて揺らぐ。海は凪いで、穏やかだ。
「海はこんなにも穏やかで在ったか」
　水面に指を差し込んで、元就が言った。元就の語調や顔つきこそ、穏やかだと元親は感じている。
「あんたの方こそよっぽど穏やかになった」
「……言っている事がよく解らぬ」
　感じた事をそのまま口に出しただけなんだがな、と苦笑すれば、元就もふっと笑んだ。