何だってするよ
常に死と隣り合わせでいるくせに、俺や幽を慈しみ優しくしてくれる片割れに。
(みかどみかどみかどおれの大切な半身)
お前が笑ってくれるなら、俺は何だってするから。
(お前が生きてくれるなら何だってするから)
同じ時を重ねてきているはずなのに、静雄の掌にすっぽりと納まる手が愛おしくて切ない。
「僕の分まで静雄が成長してるみたいだ」
卑屈でなく、むしろ可笑しげにそう言った帝人は静雄の手を離し、少しだけ静雄より前に出てゆったりと歩いた。静雄は距離を詰めるでもなく、かといって離すわけでもなくその後を同じ歩調で続く。
視線の斜め下では片割れの天然の何も手を入れていない黒髪が揺れている。
中学まで身長は同じだった。同じ目線で話せてた。しかし、今では静雄だけが時を重ね、帝人はあの頃のまま、まるで置き去りにされているかのように変わらずにいた。昔からあまり似ていないと言われてはいたけれど、もう誰も静雄と帝人を双子とは思わないだろう。それでも帝人は静雄の片割れだ。同じ血肉を持ち、同じ母体から同じ日に生まれ落ちた大切な片割れなのだ。
「静雄も過保護だよね。僕の定期健診の日に毎回休みを入れるなんて」
「別に当たり前のことだろ。俺がしてやれんのはこんぐれぇしかねぇし」
「またそんなこと言って」
顔だけ振り返った帝人は困ったように、それでも笑っていた。
「僕は充分静雄に助けてもらってるよ。むしろ過ぎるぐらいだ。幽にだって面倒掛けてる」
お兄ちゃん失格だよねと呟く後頭部をがしがしと撫ぜる。
「痛いよ」と抗議の声が聞こえたが、静雄はあえて無視をした。
「幽が面倒とかそんなこと言ったか」
「・・・言わないよ。あの子はとても優しい子だもの」
「ならそう思うんじゃねぇよ。幽が可哀相だろうが」
あいつはお前の事が好きなんだから。
そう言えば、大きな目がきょとりと瞬いた。そしてふっと細められると、「そうだね」とそっと零す。
「ねえ、静雄」
「ん?」
「僕は静雄や幽のことが好きだ。大好きなんだ」
「――――ああ、知ってるさ」
会話の端々に愛を告げる片割れ。何時止まるかわからない己の時間を、後悔で終わらせたくはないのだ、と。微笑みながら泣いていた姿を片時も忘れたことはない。
数歩離れた背中をじっと見つめる。あれ以来、帝人は泣かなくなった。泣かないかわりに、笑うようになった。その笑顔を失うことを想像するだけで、静雄の目の前は真っ暗で何も視えなくなる。
(死なせるものか)(絶対に)
当の本人は見える未来を受け入れてさえいるのに、周りが足掻く様を帝人はどう思っているのだろうか。馬鹿だなぁと呆れているのだろうか。それとも、また笑いながら泣くのだろうか。
(みかど、俺の片割れ)
お前を失いたくない。
どうすれば、お前を失わずにすむ?
なあ、どうすれば、
「静雄」
帝人は振り向かずに、そっと囁いた。
「 あいしてるよ 」
(――――嗚呼)
静雄は目の奥が熱くなるのを硬く瞼を閉じることで押さえつける。
(俺も)
「 愛してる 」
お前が生きてくれるなら、何だってするのに。
(お前はそれを望んじゃくれないんだ)
(僕は幸せだよ)