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新刊サンプル【Sweet Sweet Memory】

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寝返りをうったのか、急に腰に痛みを覚えてヨハンは目を覚ました。窓の外を見てみれば夜明けまでは時間がありそうで、隣では茶色の頭がわずかに動く。気持ち良さそうな寝顔を見て、思わずため息が漏れた。
「……はぁ」
 また好き勝手にされてしまった。むしろ勝手にされない事の方が珍しいのだが、それはそれ。あちこち痛むし疲れもたまるし、ため息の一つも出ようというものだ。
 彼女の事が嫌いな訳じゃない。確かにちょっと、いやかなり強引な所はあるけど、本気で嫌がる事はしてこないし、触れてくる指の動きは繊細――
「――っ」
 行為の過程まで思い出しそうになって慌てて首を振る。まあ内容はともかく、好かれているのはこれ以上なく伝わってくるから、どうしても厳しく出来ないのだ。自分だって十代の事は好きだから、耳元で愛を囁かれたりすると、つい流されるというか、もっと聞いていたくて……
「わわっ」
 考えている内に恥ずかしくなって、妄想を追い払うように手が振られる。それから隣の存在を思い出して視線を向けると、十代は脳天気に寝続けていた。
「……ふぅ」
 目に見えない汗を拭って、ヨハンは息をつく。一人で何をやっているんだと、自分でつっこみを入れつつ額に手を当てた。
「結局、好きなんだよなあ」
 問題はそこだ。好きだから、なんだかんだで受け入れてしまう。割り切ってしまえばいいのだろうけど、それが難しくて。とはいえ嫌いになるというのも今更無理だ。顔を俯かせると、もったりと質量のある脂肪が見えた。
「……こんな胸の、どこがいいんだろうな」
 手を当てると、柔らかな弾力が返ってくる。確かに揉み心地は悪くないと思う。周りの人間よりも豊かだという自覚はあるし、 羨ましがられる事も多い。だけど、自分にとっては重し以外の何物でもなかった。取り除けたらと思った事もあるけど、これが無ければ十代がどう反応するかとか不安になったりして。
「…………情けないなあ」
 優柔不断な考えに翠の瞳が曇る。口に出してぼやくと、肩のあたりに精霊が顔を出した。真っ赤な目を丸くして心配そうな様子に、ヨハンは力なく微笑んだ。
「ごめんな。こんな不甲斐ない主で」
『るびっ』
 気にするな、というように小さな手が肩を叩く。ぺしぺしと刻まれる一定のリズムに、少し気持ちが落ち着いた。
「さんきゅ。……お前達も」
 視線をずらせば、共に過ごしてきた家族達が勢揃いで見守っていて。過保護な態度が今は有難かった。
 そうだ、悩んでるなんて自分らしくもない。とにかくぶつかって、それから考えたっていいじゃないか。少なくとも、体を動かせば気が晴れるに違いない。
「よし、決めたっ」
 寝たまま拳を突き上げて、ヨハンは高らかに宣言する。瞳が宝石みたいに煌めいて、弾んだ音が部屋の隅々に響きわたる。
「オレも十代の胸を揉む事にする!」
『…………』
 声にもならず、デッキが肩を落とす気配がした。