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Escape from...

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 アルフレッドは、一匹のウサギを飼っています。
 野うさぎに負けないくらいのすばしこさ。そこらのけものを出し抜くほどのかしこさ。
 左側の腹に大きな茶色の模様のある尻尾の白いウサギでした。
 あんまりにすばしこいので、一度逃げ出すとアルフレッドもアーサーも追いつくことはありません。ふたりは網とにんじんとをそれぞれ持って、ウサギが隠れそうなところをぐるぐる探し回ることになります。
 一生懸命な青いまなこには、アーサーのちょっとこっけいなウサギ捕りの格好なんて目に入っていないようでした。それくらいに必死に探すのです。アルフレッドの大事なペットですから。
 ウサギは穴掘りの得意な生き物です。土のやわらかいところに作られた穴から、小屋の外へよく抜け出しました。一匹ぎりぎりが通り抜けられる穴をいつの間に掘るのか、アーサーもアルフレッドも見たことがありません。
 ウサギが逃げ出すとアルフレッドは悲しみます。かしこいけれど、それでもキツネに見つかったらひとたまりもない弱くてかわいらしい生き物です。無事を祈る目は真剣ないろ。それを知っているアーサーもまた心からアルフレッドの力になろうと奔走します。普段はまき散らしてしまいそうになるわがままもぐっとくちびるの中に押し込むアルフレッドと、ついつい張ってしまいがちな見栄をぼろりと落として素直になるアーサーの、共同するようすは一分のすきも無く家族です。
 だから、そうして逃げ出したちいさい生き物は、必ずまた見つかるのです。愛すべき飼い主とその保護者が探す限り、絶対に絶対に見つかるのです。
 今日は物置の干草の束の中にいました。
 むぐむぐと素知らぬ顔で草を食む顔は悪びれる様子がちっともない無垢そのもの。散々探し回って疲れていたはずのアーサーですらあっけに取られ、怒りを通り越して力が抜けてしまいました。アルフレッドはもう、達成された目的をあっという間に忘れ去って、その干草の山の中に自分も潜り込もうとするのでした。
 アーサーが止める暇もなく干草に飛び込んだアルフレッドは、楽しいよ、とアーサーの手をつかんで引っ張りました。しょうがねえなあ、とアーサーも苦笑いして潜り込みます。数時間ずっと一緒に行動したふたりは、もう昨日のけんかなど忘れているようでした。
 そうだついでにここでお昼寝をしようよ、思いついたような声が高らかにひびきます。
 ひと仕事終えた和やかさと安心に満ちた空気にふわふわと飲み込まれたアーサーは、ああ、そうするか、二つ返事で願いを叶えてやりました。ウサギを抱いたアルフレッドは、やったぁ、とうれしそうです。
 まるで幸せを呼び寄せているような光景の中で、にっこりと笑ったアルフレッドがこちらを見て言いました。
「おいでよ、マシュー!」
 僕は笑って、首を横に振りました。



 薄紫色の目をした子どもは、口の中で何事かをぱさりと呟く。そして満足気に微笑んで、やわらかな土の残る茶色い指先を、後ろ手に草で拭った。



(見ているからいとおしいの。その中にぼくはいらない、そうでしょう)
作品名:Escape from... 作家名:矢坂*