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波に乗る話

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※やっつけサーフィン知識




 あと三つ。三番目だ。声は出さずに自分に言い聞かせた。ボードの向きを一瞬でくるりと変える。ここからは確認できないが、浜には俺を見ている奴がいる。波を目前にしてウズウズと高揚する感情を抑えつつ、ボードに腹這いになった。海の中では自然と集中力が高まる。もう習性みたいなもんだ。海に抗える人間はいないから、絡めとられないように気を付ける。海の中ではそれが当然のこと。
 一つ目のスウェルが俺の脇を通り抜けていく。水がパシャンと跳ねて、頬に冷たい感覚を残していった。
 二つ目。これは小さいから気にもならない。さあ、次だ。絶対に捕まえる。見た限りでは来る波は大物、乗れれば爽快だろう。ぐんっと空が近付いた気がした。辺りが凄い勢いで持ち上がったのだ。テールが波に乗って高く上がり、あれだけ気を掛けていた重心の位置が一気に崩れる。パドリングする腕が持っていかれそうだ。
 捕まえたうねりは予想より遥かに俺好みのものだった。スピードに乗りやすい。波のリズムが俺のことを支えてくれている。その反面バランスが取りづらいが、その難しさに打ち勝ってこそ、だろう。
 ふうっと浮いたような感覚。ちょうどうねりの頂点に来たのだ。なかなか高い。俺はボードに手を付いてから瞬間的に立ち上がった。テイクオフした瞬間、目前に広がる緑色とクリーム色。浜の全てを見渡すことができるくらい、俺は高いところにいる。そのまま、目が吸い寄せられるかのように立向居を発見した。こちらを見ている。たぶん目が合った。…これはかっこよく滑ってやるっきゃねえよな。
 波が大きな音を立てて崩れていく。重心を少しだけ後ろに下げて、足の位置をしっかり確かめる。行ける。飛沫が目の前にやってきた。よけられずに顔にぶち当たるけど、気になんかしていられない。楽しくて仕方がない。サーフボードが波の斜面を滑り降りて行く。
 今まで集中していて気が付かなかった太陽の光や潮風の感覚が、一気に体に流れ込んでくる。オレンジ色にきらきらと光る太陽に、何となく恋人の顔を重ね合わせた。目の端でチューブが覆い被さってくるのを確認したが、恐怖は感じない。こういう時に感じるのは、海への感謝と勝利感だ。波に乗ることの気持ち良さは例えようがない。今のようにタイミングに恵まれた時は尚更だ。
 閉じかけたチューブをしゃがんで通り抜ける。波の力はもう小さい。ありがとな、楽しかったぜ。心の中で波に礼を言うのも習性のようなものだろうか。海の神様がいるのなら、この気持ちも届けばいいと思う。やっぱり海が好きだ。

 ボードから降りて、浜に上がる。くうっと伸びをしていると、ずっと俺を見ていてくれた彼が駆け寄ってきた。
「綱海さん!やっぱり凄いですね!」
「ああ、ありがとな!」

 ニカリと歯を見せて笑えば、息を弾ませる立向居も微笑んでくれた。野郎二人で顔を突き合わせて微笑んでいるなんて不自然かもしれないが、俺は幸せだからそれでいいんだ。
 そしてもう一度思う。海の神様がいるのなら。
俺と立向居がずうっと一緒にいられますように、なんて。






サーフィンについて知る機会があったので用語とか使ってみました。
参考(素人なので訂正すべき点があったら教えてください…)
スウェル:波
パドリング:手で水をかいて進むこと
テール:ボードの足側(頭側はノーズ)
テイクオフ:ボードの上に立つこと
チューブ:頭上に被さってくる波

 
作品名:波に乗る話 作家名:あきと