プレゼント
名取さんが映画に出演して、主演なんとか賞を受賞したとかで、関係者一同招いてのパーティとかが開かれる……らしい。
まあ、それは別にいいです。オメデトウゴザイマス。
でも何でおれまで行かなきゃいけないんだろう。着ていく服とかなんかも持ってないのに。
うっかりそんなこと言ったらもう次の日にはそういう服なんて知らないおれにも明らかにわかるような手触りの良すぎる高級そうな礼服が贈られてきた。宅配便。受取拒否したかったけど、受け取ってしまったのは塔子さんだった。仕方なく速攻贈り主に電話をかける。
コールは3回で繋がった。
「やあ夏目。どうしたんだい君から電話をくれるなんて」
「……あのですね、名取さん。あんな高そうな服、おれは受け取れません」
「だってね夏目。私は念願の賞を受賞したんだよ?」
「知ってます。あなたからも聞かされたしテレビつければ芸能ニュースで今どこの局でもあなたが映ってるし」
「だからね、プレセント」
「あなたが受賞したのにあなたがおれにプレゼントっておかしくないですか?どっちかって言うとおれがあなたに何か贈るべきじゃ……」
「うん、だから夏目。その服を着てお祝いに来てほしいんだよ」
声が鬱陶しいほどににこにことした感情を伝えてくる。
「はあ……」
「私はね、その服を着た夏目を見て喜ぶから」
「はあ……。変な人ですね名取さん」
「ひどいなあ夏目。変でも何でもないだろう?恋人に服を贈る。それのどこがおかしいのかい?」
「……オカシイと思うんですけど」
恋人……か。うっかり名取さんの好きだという言葉に承諾してしまったのはもう何年も前のことだ。痛恨の、出来事。単なるミステイク。だというのにすごい嬉しそうにするからいつも。だからなんとなくおれも拒否できなくて今に至る。
「知っているかい夏目。恋人に服を贈るというのはね、その服を脱がしたいという意味なんだよ。受賞のお祝いに、それからもう付き合って何年も経つんだからそろそろいいかなと、」
ガッチャン、と。名取さんの言葉が言い終わらないうちにオレは受話器を叩きつけた。
ぬ、脱がしたいとかちょっと待て。
待てとか思うんだけどだけど。
ええとあの。
……多分おれはなんだかんだと文句をつけても、きっとこの服なんか着て、それで受賞のお祝いに駆けつけちゃうんだ。
あーあ、と天井を仰いでみるけど仕方がない。
オレはこの服を着てこの服を脱がされる未来に深い深いため息をついた。
‐ 終 ‐