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ふうりっち
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novelistID. 16162
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=3= プロイセン・ブルー(仮)

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「よぉ、ヴェスト!」

 豪快に扉が開くと、兄であるプロイセンが顔をのぞかせた。手に抱える荷物からして、仕事の途中で市場にも行ってきたのだろう。
 しかし、聖職者として正装であり、自分と同じ法衣―――ロング丈の黒いローブ。その上に黒と白のケープを重ね、胸には金の十字架をつけた―――まま、市場まで行ったかと思うとヴェストは苦笑いしかできない。
 兄は、かなり大雑把な性格だと思う。
 公務時は法衣着装が義務付けられるとはいえ、買い物に行くときくらいはローブ上にコートを羽織るなり、着替えるなりしてもらいたいと常々思っていても、公私混同をやめようとしない。

『一々細けぇんだよ。小鳥のようにカッコイイ俺様は何着てても似合うんだからよ、気にすんな!』

 以前、注意したときは鼻先笑いされた記憶がある。それ以後、口に出して注意はしていなかったが、未だに改善されていないようだ。周囲からだけでなく教会から注意を受ける前に、もう一度、忠告すべきが悩んでいると額に触れる感触に目を瞠る。

「…ッ!」
「熱はねぇみたいだけどよ、まだ顔色悪いぞ」
「…あ、ああ…まだ少し、身体がだるいな」

 覗き込む赤い瞳から逃れるように視線転じた瞬間、脳裡に甦る業火に包まれた兄の姿を思い出し、ヴェストは身震いする。
 あれは現実ではないとしても、夢見はよくない。例え呪術のため身動きできなかったとしても、絶叫をあげ悶え苦しむ兄を救うことができなかったことを思うと、胸の奥が痛む。しかも、脳裡から離れない兄の姿を思い出すと無意識のうちに心臓のあたりを握り締めていた。

「まだ夕飯まで時間あるしよ、もうちょっと寝てろよ」

 できたら起こすからよ。
 夕飯の支度のため、プロイセンは部屋を出ていこうとドアへ手を掛ける。

「すまない、兄さん」

 兄を見送りながら、その言葉が口をついた。
 司教としての仕事だけなく、慣れない家事まで任せっきりにしていることを思うと、どうしても謝罪ばかり口にしてしまう。だがプロイセンはニッと笑うだけで「気にするな」とやさしく言葉を残した。
 その後ろ姿は、病床の弟を気遣う兄としてヴェストの双眸に映ったが、現実問題は何も解決していないことに焦燥感が拭えずにいた。
 プロイセンが去り、静かに扉が閉まると、再び室内に静寂が訪れた。

「服、着替えておくか…」


 このまま寝るにしても寝汗にしては尋常ではない汗を吸った寝間着は、肌に張り付き不快感が伴う。気分は優れないが、動けないわけではない。ドイツは着替えのためベッドを下りた。
 この静寂が怖いわけではない。ただ兄が去った部屋に一人で居ると妙な寂しさを覚えたせいもあり、ドイツは着替えを置きに行きがてら、そのままダイニングに居座るつもりでいた。
 いつものように壁際の引き出しから変えの寝間着を取り出し、手早く着替えた。できるなら全身の汗を拭いたかったが、洗面用の水を切らしているため、今は諦めるしかない。仕方なく着替えだけを済ませ、部屋を出ようとした振り返った瞬間―――目の前にそいつが居た。