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肉食系男子といっしょにごはん(染吹)

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ここにいるだけで世界旅行が出来るようなものだ、と言ったのは確かに自分だけど。
それにしたって、午前練習が終わった途端に袖を引かれて、
「アルゼンチンに行こうよ!」
なんて言われれば、誰だって「はあ?」と返すだろう。それが普通の感覚だ。
アルゼンチンのチームであるジ・エンパイアと戦ったのは、まだ吹雪が来る前のことだ。
復帰してからこっち、練習三昧で他の国のエリアに行く余裕がなかったのは事実だけど、それにしたってアメリカ戦を前にそんな悠長なことを言われるとは。
昼飯どうするんだよ、と問えば向こうで何か食べようよ、マネージャーと監督にはもう許可取ってあるから、なんて、出会った頃のような淡々とした口調で。
付き合いが長いわけじゃない。
エイリア学園とのときは、自分が途中で退場してしまったし、今回だってアジア予選は自分が不在でイギリス戦とアルゼンチン戦は吹雪がいなかった。
自分よりも長く一緒にいる相手、たとえば円堂とか鬼道とか、豪炎寺とか。
彼らなら、分かるのだろうか。
吹雪の考えていること、好きなもの、嫌いなもの。
自分のことを、どう思っているのかを。

アルゼンチンエリアは、染岡が見る限り何もない場所だった。
奥の方に広場があって、有名なサッカー選手を模した像がある。
けれど、目立って特徴があるのはそのくらいで、そもそもアルゼンチンという国に馴染みがない。
サッカーをやっている人間として、マラドーナの名前はもちろん知っているしアルゼンチンが強豪だということも分かる。
でも、そのくらいだ。
メインストリートを並んでだらだらと歩いていても、交わす会話は日本でのこととか、離れていた間に起きた出来事とか、そのくらい。
何故吹雪が、自分と一緒にアルゼンチンエリアに来たかったのか、染岡にはいまいち分からない。
「あ! あれが、皆が言ってた像だね」
ストリートの方からも小さく見える銅像を指して、吹雪が声をあげた。
少し離れていたほうが、その形がよく分かる。そのくらい大きな像だった。
何が嬉しいのか、何が楽しいのか、よく分からないが、吹雪は軽やかな足取りでたたたっ、と音を立てながら駈け出す。
元陸上部の風丸よりも速いと称されたそのスピードは、復帰したてとは思えないくらいだ。
慌てて追いかけた染岡は、銅像の前で急に立ち止まった吹雪に思わずぶつかりそうになる。
「すごいね」
「…何がだ?」
「この大きさだよ。アルゼンチンの英雄って言われてるだけはある」
「ああ、そうだな」
「本国でもないのに、こんなの作っちゃうなんてすごいね」
それは、事実感心して言っているのだろうけれど、何故か皮肉めいても聞こえた。
自分は、まだ吹雪の性格が分からない。
初めて出会った時の、さらりとした暴言とか。
一緒に旅をした時の、不安げな表情とか。
久しぶりに会った時の、屈託の無い笑顔とか。
そのどれもが、吹雪であって、吹雪でないように思えた。
(もっと、一緒にいればよかったんだろうか)
今更思っても仕方ないことではある。
キャラバンを離脱した自分が悪い、東京から北海道まで800Kmもあるから悪い、選抜に選ばれなかった自分が悪い、アジア予選で怪我をした吹雪が悪い…。
二人を隔てた理由なんて、そりゃあ沢山あるけれど、そもそもそんなことを考えるのがおかしいのだ。
「走ったから、おなかすいたね」
小さな子供のように、両手で腹を押さえて吹雪が呟いた。
そう言えば、このエリアで昼食を取ろうとか言っていた気がする。
呼応するように、ふわりと漂うスパイスの匂いと、はっきりと音を鳴らした自分の胃袋。
「ステーキ食べようか」
銅像のすぐ横に、ステーキの屋台。
拒否する理由は、思い当たらなかった。

ステーキ、と聞くと値段が張るイメージがあったのだが、ここのメニューは意外にも安かった。
少なくとも、中学生である染岡のお小遣いでまあ何とかなる程度に。
染岡が頼んだのは、とにかくボリュームがある分厚いステーキをミディアムレア。
吹雪が頼んだのは、スライスしたステーキをパンに挟んでチーズをかけたホットドッグのようなものだった。
テーブルや椅子のようなものは用意されていないから、銅像の前にある段差に腰をかけてかぶりつく。
塩こしょうのみでしっかりと味付けされたステーキは、肉汁もたっぷりで柔らかく美味い。
フォークとナイフを使ってがつがつと食べ進める染岡に対して、吹雪はのんびりとパンを咀嚼している。
ちまちま、という効果音が似合いそうなその様子は、まるで小動物のようにも見えた。
(リス、とか?)
耳としっぽの幻影が見えたようで、自分の想像にうんざりした。
「どうかした?」
「はあ!? 何がだよ」
妄想を見透かされたようなセリフに、照れ隠しで声を荒らげてしまう。
びよん、と伸びたチーズをぺろりと舐めて、吹雪は小さく笑った。
「ずっと、こうしたかった」
「こうって?」
「染岡くんと、つまんない話をしながら、一緒にご飯を、食べたかったんだよ」
「別にそんなの、宿舎でもしてるだろうが」
「…二人きりが、よかったんだよ」
話し上手なわけじゃない。面白い雑学を知っているわけでもない。サッカー以外の共通の話題なんて、あるわけない。
それでもいい、なんて言われても。
心臓が、わけもなく鼓動を速める。
どうしてだろう。さっきまでスパイシーだったステーキの味が、何だか分からなくなってしまった。