二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

静かに頬を伝いましょう

INDEX|1ページ/1ページ|

 
泣かないで、これ以上ぼくを流さないで。きみのかわいい顔が台無しだよ。きみにはぼくが必要ないくらい明るくて元気でまっすぐな女の子なんだ。だから、ぼくをきみの瞳から流さないでおくれ。きみから出てくるぼくはとても大きいんだ。きみは強い子だから。だから、僕を必要としなくていいんだ。
「好きなの・・・」
あ、きみの瞳からぼくがでてきた。きみの見えている景色がうつる。きみはぼくでぼやけて前が見えないだろうけど、ぼくは鮮明に見えるんだ。目の前にはきみが大好きな男の子だよね、きみはこの人のせいで何度もぼくを流す。だからぼくはこの人のことが心底嫌いなんだ。きみには悪いと思うけど、ぼくはなによりきみが大切だから。
「光子郎くんが、私、わ、たしっ・・・」
強がっているきみ、もうすぐぼくはきみの瞳の中で大きな粒になってきみの頬を伝う。ぼくは嫌だよ、ぼくはこの人の前には現れない。きみの魅力はぼくが主役の表情じゃない、とびっきりの笑顔だから。どうか、ぼくを飲み込んで。
「ミミさん・・・」
きみはゴシゴシと乱暴に目をこすった。ぼくは拭われて伝わずに済んだ。きみの得意な強がりだ。昔は自分の気持ちを最優先するわがままなお姫様だったのに、成長してから「ガマン」って言葉をしっかりと理解できるようになったんだよね。ぼくはきみとずっと一緒にいるから何でも知ってるんだ。目を潤してるからきみの見ているものもわかっている。きみはまっすぐと男の子を見る、ほらきみのいいところ。きみはまっすぐ目を見て話す、だからいろんな人、モノに心を許されるんだ。ぼくはきみのいいところをいくつも知ってるんだ。
「迷惑だったよね!アハハ・・・忘れて!ね!」
きみの悪い癖だ。きみは一番辛いときに笑うんだ。ぼくはきみの笑顔が好きだけど、その笑顔は好きじゃない。だって、ぼくがきみの瞳から顔を出すことになるから。ぼくの見えるきれいなきみの視界。きみの好きな人が罪悪感に満ち溢れた顔をしてる。ああ、あなたはぼくの大好きなこの子を振る気なんだね。許さないよ、ぼくは絶対に。だからいって復讐ができるわけでもない。嫌がらせも、何もできない。歯がゆいよ、きみのためにこの人を懲らしめてやりたい。でもぼくはきみの一部だからできないんだ。
「すみません・・・お気持ちは、本当に嬉しいんです・・・」
「もう、そんな言葉いらない!ごめんね、なんか!」
ぼくはきみの瞳の中で大きく大きくなっていく。つらいんだね、悲しいんだね。ぼくはきみのことならなんでもわかるんだ。今どんな気持ちだとか、今どんなことを思っているかとかも。きみだけだよ、だってぼくはきみとずっと一緒にいるんだから。笑ってよ、そんな悲しい笑顔は見たくないよ。お願いだから。ぼくが溢れ出ちゃうよ、この人の前では姿を現したくないんだ。
「っ、ミミさんっ!!」
急に大きな声をだす想い人。きみはびっくりしてぼくをひっこめた。ぼくはこの人のことを知らない。ううん、知りたくないだけ。本当はずっとこの人も一緒にいるんだ。きみとずっと一緒にいるもんね。きみは小学生の頃からこの人のことが好きだったね。身長が小さいのが惜しいとか言ってたけど、今じゃ抜かれちゃってるじゃない。難しいことを言うあなたにこの子は泣いてしまったこともあったね。ぼくはあなたの前で姿を現したことは何度もあるけど、成長したこの子を見て。もう泣き虫でわがままなお姫様じゃないんだよ。ほら、太陽みたいにきらきらしてる笑顔を見てあげて。ぼくのことを見ないで、ぼくがいたことは忘れて。
「・・・むりして、笑わないでください・・・」
ぶわっ。ぼくがきみから溢れ出た。あなたはこの子の何を知ってるの?ぼくよりも一緒にいる時間はずっと短いのに、どうしてこの子の悪い癖を知ってるの?ぼくしか知らないと思っていたのに。ぼくがたくさんきみの瞳から溢れ出る。男の子はぼくをじっと見ている。そして優しく指で拭ってくれた。あなたじゃないと、この子はぼくを止めることができないんだ。だから、はやくぼくを忘れさせてあげて。きみじゃないと。
「泣かないで」
きみはまた乱暴に目をこすった。腫れちゃうよ、赤くなっちゃう。きみのかわいい顔が台無しだよ。ぼくは一瞬だけ、止まって。再び、きみの頬を伝った。
作品名:静かに頬を伝いましょう 作家名:ふゆ