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欲しいと言えない子供

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欲しいものを欲しいと言える子供じゃなかった。




僕には気になるひとがいた。最初は好奇心。次に憧れ。そして恋。自分でも、何て単純な思考だろうと嗤わずにはいられない。僕の中で勝手に育まれた気持ちを当然彼は知る由もないだろう。知られるほど、一緒に居るわけではないからだ。きっと彼の中の僕の立ち位置は、知り合いの知り合いといったところだろうか。もしくは認知すらされていないかもしれない。例え僕の中で彼が特別な位置に居たとしても、だ。(不毛だ)結末の見えている恋ほどむなしいものはない。おかげでため息の量が増えてしまった。紀田君は「帝人の幸せがそこらじゅうに飛び散ってる!」と言って、無駄に深呼吸しようとするし。(もちろん回し蹴りをして止めさせた。あれは自分でもいい蹴りだったと思う)
とりあえず恋をすると人生薔薇色と言ったひとに問いたい。
それは成就が約束された時だけのことですよね、と。



目の前には彼の背中。だらりと下げられた左手を見る。大きなてのひら。たまに不器用にけれど優しく頭を撫ぜてくれるてのひらが帝人は好きだ。ふらりと手を伸ばす。触れてみたいと思った。だけど、振り払われるのが怖いとも思った。
結局臆病な帝人の手は、寸前で止まった。
指を折り曲げ、拳を作る。触れたい触れられない触れたい怖い触れられない。伸ばした手を引き寄せて、胸に押さえつけた。
彼はやはり振り向かない。背中の帝人なんて気にも留めない。
そういう存在なのだ。彼にとって、帝人は。


「恋なんてね、独り善がりの身勝手な感情なんだよ」


右手が引き寄せられ、そのまま身体ごと振り向かされる。帝人の視界は彼から、見慣れたジャケットに移った。どんどん引っ張られて、帝人の足は縺れる。それでも転ばないようにしたら、結果的に右手を掴んで離さない彼に付いていかざるをえなかった。
「―――臨也、さん」
「・・・・・・」
「臨也さん、はなして」
「いやだ」
硬い声で拒絶される。臨也らしくない声だと思った。
「、どうして」
「どうして?そんな顔をしてる君が言うのかい?俺はね、帝人くん。君を不毛で無力で無価値な想いから連れ出してるだけだよ」
臨也が顔だけ振り返った。その顔はいつものように笑ってはいなかった。
「ねえ、止めなよ」
「え、」
「もうさ、静ちゃんなんて止めて俺にしな」
「――ッ、」
「俺は帝人君のことが好きだ。愛する人間という種族の中でも一等で特別に愛してるって断言できる。君が手に入るんなら他はいらないし、欲しくもない。ねえ、帝人君。俺なら君が望む『愛』をあげれるよ。だから俺にしなよ。君の愛を贈る相手を、俺に」
呆然と見上げる帝人を見て、臨也はやっと笑った。少しだけ苦しそうに。
けれど、獲物を見据える捕食者のように。


「俺だけに、しな」


答えられない帝人を、臨也は目を細めて見つめてから顔を前に戻した。握る手の強さに帝人は顔を歪める。足は止まらない。手を振りほどけない。弱い部分を見せてしまった自分がきっと悪いのだ。臨也はそれを利用して帝人を引き寄せる。そして帝人もまた臨也を利用して見苦しい想いから目を逸らそうとしている。
帝人は振り返った。人垣から垣間見えたのはやはり背中だった。振り返ってほしかった。けれど、振り返ってくれたとしても、どうしたらいいかわからなかった。帝人は彼の名を呼ぼうとした。
しかし、臨也の声で封じられる。


「逃げてもいいよ」
臆病で弱虫な帝人君。


優しい声が帝人を惑わせる。
帝人を彼から引き離す臨也は今、嗤っているのだろうか。


「逃げてもいい。―――俺に向いてくれるなら」


帝人は硬く瞼を閉じた。
頬を伝ったのは、涙か、それとも彼への想いなのか。
帝人にはわからなかった。




欲しいと言えない子供は欲しがる大人の手を取った。
(独り善がりな想いは裏切りにすらならないのだと初めて知った)





帝人は知らなかった。臨也と帝人が人垣へと姿を消した時、彼が振り向いたことを。
「――――竜ヶ峰・・・・・?」
呆然と、探るように、恋しげに、哀しげに、帝人の名を呼んだことを。
帝人は、知る由もなかった。





(ああ、何て不毛な恋なんでしょう)
作品名:欲しいと言えない子供 作家名:いの