二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

後ろから

INDEX|1ページ/1ページ|

 

扉を開けた途端に飛び込んできたのは漆黒の髪と瞳を持つうっさん臭い男の笑顔。
「やあ、鋼の。久しぶりだね元気だったかい?」
迂闊に扉なんか開けるんじゃなかったと後悔する間もなく。何カ月ぶりかに目にした男は勝手にオレの家の中へとずかずかずかずか入り込む。
「あーのーな大佐っ!オレはもう『鋼の』じゃねえって何回言えばわかるんだよっ!!」
まあいろんなことがありましたなんて一言では済ませることが出来ない過酷な運命をどうにか何とか乗り越えて。そうして故郷のリゼンブールでのんびりと悠々自適に晴耕雨読な研究オンリーの生活を送っている……という穏やかな日々なのに、この男と来たら連絡も寄こさずふらりと……っていうかいきなりホント唐突に、オレの家へとやってくる。ああもう、心臓に悪いったりゃありゃしねえ。
「それを言うならね、君。私ももう『大佐』ではないのだが?」
「へーへーへーへー、そーでしたっ。失礼いたしましたロイ・マスタング中将閣下殿っ」
厭味ったらしくフルネームの階級付きでその名を呼んでやれば閣下のやろーは着ていたスーツの上着を無造作に脱ぎ棄てて、それをオレへと投げつけた。
「何すんだよっ!!」
オレの怒鳴り声なんか柳に風で中将閣下は勝手にすたすたすたすた廊下を歩き、オレの寝室に入って行った。
「疲れたから少し休む。寝室を貸したまえ」
セントラルからこんなリゼンブールの片田舎まで連絡もなしにやって来て、そりゃあ距離を考えれば疲れっかもしれねえけど、身勝手にもほどがある。
「疲れるっつーのならこんな田舎まで来るんじゃねえよ」
憎まれ口の一つでも叩いてやれば、眉間にびっちり皺を寄せた不機嫌な顔がくるりとオレの方へと向き直った。
「書類書類に式典に腹の探り合いの毎日でな。正直疲れた。今だけは誰にも会いたくない。護衛もホークアイもなんとか捲いてやっとのことまでここに来たんだ。しばらくで構わない。逃避くらいさせたまえ」
「誰にも会いたくないなら独りになれるところでも勝手に行きゃあいいだろっ!オレんとこなんか来てんじゃねえよ」
コイツはやってくる度に疲れただの休ませろだの言うだけ言ってオレのベッドでグーグー寝る。ホント疲れてるんだと思うけど、国のトップなんて大それたモン目指してんならそのくらい仕方がねえんだろう?疲れてるならゆっくりしていけよ、なんて甘い言葉なんかかける義理もない。ま、どーせ一眠りして起きる頃には天下の鷹の目補佐官殿が拳銃付きでコイツを迎えに来て、んでもってセントラルまで問答無用で連行される……ってもう何度も何度も繰り返されてきてたからなんかこう、慣れちまったしんなことは最早どーでもいい。ま、一応文句を言うのはお約束みたいなもんなんだ。なのに今日に限ってはコイツ思いっきり苦虫つぶした顔でオレの手を引っ張って。んでもってベッドの中まで引きずり込みやがる。
「うるさい。私は疲れているんだ。誰にも会いたくないからこそ君の所に来たのではないか。眠いのだから大人しくしたまえ」
国軍中将閣下殿はオレを抱き枕みたいに後ろから抱え込んでベッドへと倒れ込む。寝るならヒトリで勝手に寝ろ、オレは枕なんかじゃねえぞという文句すら言う暇もなく、すうすうという寝息が聞こえてくる。
……ホント疲れてるんだよな、とか思ってオレは身体をずらそうとしたんだけど、がっつりと抱きこまれて身じろぎすらできやしない。

疲れて。誰にも会いたくない。……なのにどうしてオレの所にアンタは来るの?

聞きたくて聞けないその言葉。
誰にも会いたくないってアンタ言うクセに、オレに会うのは構わないのかよ。
言いたくて、でも言いだせないセリフをオレは今まで何回飲み込んだことだろう。
コイツの意図がわからなくて。わからないからこそ勝手にオレはその理由を想像して。

すうすうという寝息が首筋に触れてくすぐったい。
寝ている男の体温を背中に感じれば、それが妙にあったかくって。

ああもう、ホント勘弁してほしいんだけど。
疲れて誰にも会いたくないのにオレの所に来て眠る。
……ちくしょ、勝手に期待するぞ。しちまうぞコラこの無神経。ホントしちまっていいのかよ。

言ったところで寝こけている男から返事なんかはないだろう。
ぐうぐうぐうぐう爆睡なんかしていやがるし。聞こえないなら言っちまえ。そう思って、だけどホントは答えなんかを期待して。
「こんなことされると誤解すっぞ。オレのこと……スキ、とか、そーゆーふうに受け取っちまうぞ」
ぼそ、と告げちまったオレの言葉にやっぱり返事なんかあるわけなくて。

ああ切ないし胸が痛い。

……なんて乙女みたいな考えをさせちまうコイツにめっちゃムカつくから。コイツが起きたら思いきりしばくとして。とりあえずオレも目を瞑る。

実は寝たふりをしていたコイツがオレのセリフを聞いていたと知ったのは、オレが眠って起きた後。
ようやく言えたという恥ずかしいセリフをこの男の甘い声で聞かされるのもその時で。

……ああもうやっぱこの男、ものすごいムカついたから蹴っ倒す。



‐ 終 ‐
作品名:後ろから 作家名:ノリヲ