百合の花束を贈りませう
彼はそろそろ死ぬらしい。それは、自分が彼の死期を予知したのではなく、彼自身がぽつりと紅茶を飲みながら言ったのだ。しかし、彼は到底死にそうになく、むしろ熱い紅茶のせいで血色が良くなって、頬が赤く染まっている。自分は意味がわからず首を傾げたが、とりあえずそうですかと頷いておいた。ああ、死ぬんだと彼はまたもや言った。
「ならば、僕に身体くれませんか」
「駄目だ駄目だ。この身体はボンゴレにあげるのだから」
彼が寂しく言った。勿体ない。どうせこの汚れた世界にくれてやるのだったら、僕にくれたらいいのに。そのほうがずっと綺麗でいられるだろうに。
「だから、駄目なんだってば。これから、俺の死体を一つ、作り上げなきゃいけないのだから」
どうやら、彼の生死というよりも彼の屍が大事らしい。彼と彼の周りのものは、また可笑しなことをするようだが、彼は何も言わないので深入りする理由もない。ただ、彼がいなくなるのは少しおもしろくなかった。これで、この世界にいる理由がまた一つなくなってしまう。
中身のなくなったカップに、また琥珀色の液体を注ぐ。ついでに、彼の分もなみなみと注ぐ。彼はぺこりと頭を下げて、紅茶を飲む。そして、クッキーにも手を出す。誰が作ったかわからない、そのクッキーを一口食べて、あ、おいしいと呟き、また手を伸ばす。嗚呼、なんて彼は暢気なのだろう。先程の会話などなかったようだ。
「なあ、骸」
「はい」
「俺って生まれ変われるかな」
「さあ。例え、生まれ変われたとしても前世のことなど覚えてないと思いますが」
ずずーっと紅茶を啜る。彼はそっかと頷いた。
「なあ、骸」
「はい」
「俺はどうやら死ぬようだ」
「そうですか」
「お前は俺の墓の前で百年待っといてくれと言ったって、きっとやってくれないだろう」
「きっとそうですね」
「それならば、百年後にまた俺に合いにきて。俺はきっとわからないだろうから、お前が探し出しておくれよ」
喜んで。輪廻の果てまで探しに行きましょう。自分はそう言った。言いながら思った。
それでは、いつか百合の花束を贈らなければならないなと。
作品名:百合の花束を贈りませう 作家名:kuk