熱を抱き締める冷めた夜
「おはろぉー!!!き・ちゃっ・たーー!!!」
てへぺろ☆
津野田現人は男に向けて、照れたように舌を出して見せた。彼の年齢を考えるなら、はっきり言って白い目で見られてもしょうがないのだが、そんな動作が完璧に似合ってしまうのが、津野田の恐ろしいところだ。
「あれー今日家政婦さんはー??いないの?辞めさせちゃったの?おつかいなの?食べちゃったの?」
いつもは家政婦さんが迎えてくれると言うのに、今日は彼が迎えてくれたと言う不思議。首を傾げた津野田に、食うか、馬鹿。使いに出した。と男が鼻を鳴らす。
「あ、そうなのー!!ならいいんだけどね!むしろナイスタイミング?なんちゃってー!!!」
勝手知ったる人の家。津野田は靴を適当に脱ぎ捨てると、了解も取らずさっさと家に上がり込んだ。男は津野田をじろっと見はしたが、もう慣れているのか溜め息を吐くだけに止めた。
「ねーみっきーのお部屋どこだっけー??」
みっきーは止めろ。男は津野田を睨んだ。
「えーいいじゃんかわいいっしょみっきー。このギリギリ感がなんとも!!!」
津野田はにへらーと笑うと、さあ行こう行こうと男を部屋へと追い立てる――……が、
「ね、みっきー。それとも――……ここでしちゃう?」
津野田は先程の底抜けに明るい笑みを消すと、その顔に、酷く淫猥な笑みを乗せた。
肉の悦びを知っているからこそ、浮かべられる笑み。……男の手が、肩に触れた。
「へへー」
床に押し倒されながら、津野田は笑った。男のために、ではない。遠くの街にいる彼奴のため。
「……ん」
浅い口付けを受けながら、男の顔を観察する。昔から思ってたけど彼奴とは半分しか血が同じでないせいかあんまり似ていない。似てたらもっと盛り上がれたのになァ、残念。
「ふへ、くすぐったいよーみっきー」
シャツの中で蠢く男の手に、津野田がくすくす笑う。身を捩って笑う津野田を押さえ付けて、男が津野田のベルトに手を掛けた。
「……みっきー、性急」
五月蝿い。男がぴしゃりと言い放った。
「ねえ、みっきー?」
熱さに紅潮する男の頬を両掌で包みこんで、津野田は問う。
「俺のこと、好き?」
すると、即座に返される頷き。それから男は目を逸らした。…嘘の、下手なひと。
「ん、おれも」
きらいだよ?
作品名:熱を抱き締める冷めた夜 作家名:みざき