【ノマカプAPH】いつか…【香湾】
そして、それが叶わぬ恋だということも、知っていた。
彼女の視線は、いつも違う人に向いていた。
だけど、そこで諦められないのが恋ってモンだろ?
だから俺はいまだに彼女とは“友人”の関係を保ち続けていた。
それはこれからもきっと続いていく…
そう思っていたんだが……
「香~!ふへへ…」
その関係を崩す、そんな瞬間がじわりじわりと近づいている気がした。
「湾、何がしたい的な?」
出先から戻り、自室のドアを開けた瞬間に漂う酒の臭い。
そっとベッドを覗くと、そこには酒の瓶を抱えた、俺の想い人が眠っていた。
彼女の名前を数回呼び、軽く揺すっても起きる気配もなかったので、ベッドの少しだけ残った空きスペースに寝転がる。
寝たふりをして、彼女が起きた時に驚かそう…そう考えて目をつぶる。
その瞬間、ベッドが軋む音がしたので思わず目を開けると、そこにはドアップの彼女の顔があった。
そして今に至るんだが…。
「湾?どうした?ていうか酔いすぎ的な?」
「酔ってなんかないよー!」
「酔っぱらいは皆そう言うから」
言葉を交わす度に彼女の顔はどんどん近付いてくる。
しかもその頬は真っ赤になって、目もトロンとして…正直…色々耐え難くなってきた。
「湾、ちょっとどいて。」
「えー、嫌だよー。私香とくっついてたいよー!」
今の格好と彼女が放った言葉とで、我慢は限界に近づいていた。
いっそ自分も酔ったふりをして迫ってみようか、そう考えた瞬間。脳裏をある人物がよぎった。
「日本さんに見つかったら、どうする…的な?」
そう尋ねると、彼女は一瞬動きを止めて考えるような表情をする。
しかしその表情はすぐに崩れ、代わりにニヤリという音がしそうな笑顔を浮かべた。
「日本さんは来ないよ?」
「…何でそう言い切れる的な?」
「だって、このお酒くれたの、日本さんだもん。」
「…へ?」
「日本さんが、これ飲んで勇気出してくださいって」
「いや…へ?意味分からない。」
頭の上に疑問符を浮かべると、さらに彼女の顔が近づく。
「…だから…何がしたいの、湾?」
「ふへへ…香…だぁいすき…」
「…湾、」
もう我慢の限界だと力任せに彼女と自分との位置を逆転させる。
目をつぶってそっと顔を近付ける。
あと少しで触れる、その瞬間にそっと彼女の様子を確認すると……
「…寝てるし……。」
彼女はすうすうと寝息を立てて再び眠りに落ちていた。
「もういいや…俺も寝よう。」
相変わらず彼女が占領しているちょっと酒臭いベッドの、空いたスペースに身体を埋めてそっと瞳を閉じた。
”いつか君以上に誰かを愛せるでしょうか”
(それはきっと無理な話。)
【終】
とある企画サイトに提出。
作品名:【ノマカプAPH】いつか…【香湾】 作家名:千草