前へすすめない
危うさと強さをともに持つ人だから
この人は側にいてあげないとなぁなんて思った
こんなこと本人の前じゃ口が滑っても言えない
本当に子供のような人。これも禁句だ。
自分が優位な立場にたてる余裕を感じてあの人の幼さも自然と感じとっている
「山崎」
すう、と通る声が自分の名を呼んだ
声はこの2年で変わった
元々可愛いと称される容姿とは裏腹に声はしっかりと低めのトーンも交えた男のそれだったけども
この2年ではそれが更に年数を経て妙に何かを含むものへと成長を遂げた。
こんなもの感じてしまう自分自身が一番変わってしまっている
何より一番変わったと言われるのはこの自分だ。
自覚ははっきりとある。今では誰もこの俺をジミーとは呼ばないのだから。
「はいはい何か用でーすか」
ぴく、とそのこめかみが動いた
前だったら、バズーカーひとつでぶっぱなせばよかったでしょうが、と心の中で言う
そういう表の幼さは無くしたフリをして。
一番いけないことだ、と胸を痛めた
この人の素直でストレートな子供のような純粋さを潰すことが背徳だと知っていたから
そのまっすぐさをどうか駄目にしてしまわないようにと周りは甘く接していたのに
近藤元局長が志村家へ婿入りしてから、それを押し込んでこの人はのし上がっていった
変わっていくタイミングがそこだった
人なんて2年で変わるわけがない。そこらへんもわかっている
でもそんな言葉ひとつでは変えられる状況ではなかったのだ
変わらなければいけない。ただそれだけだった
「そのチャラついた口調どうにかしろ」
「ふ、バカイザーにはこんくらいで充分」
「山崎ィ・・・てめぇ死にたい?」
「まっぴらごめんだよ」
「・・・もう・・いい疲れた。好きにし─・・・」
そう言って顔をそらす。それを許してやらない。
顎を掴み力任せにこちらへ向かせた
「そうやって」
むかつくなぁこの人。なんでこんなんなってんの。俺が言えた義理じゃないけど
「すぐ諦めんの?諦めちゃうの?負けず嫌いじゃなかったっけ?沖田隊長」
わざと挑発するように強調して最後の言葉を言った
とたんに深くなる眉間のシワ
あーあ
前はこんなの無かったのに。
その瞳に移すものはなに
あたかもこの世界を楽しんでると言っているけれど
この人の目はとうに死んでいてその事に気付かないふりをして
ただ闇雲に走ってるようにしか見えないその姿は痛々しい。
それすらを楽しんでるようだ
いや、きっと望んでそうしているんだろう
どちらにせよ痛々しい。見てられない
まだ自分を制御しようとしているのか、視界に入る拳が震えている
殴れよ、はやく
それとももらったあのバズーカー返すからそれでも思いっきりぶっ放せば?
なんだ
幼いのは自分じゃないか
こんなにも
いらだってる。
「2年とか・・・くそうぜー・・・」
こんな変化くそくらえだ
吐き捨てるようにいって顎にやっていた手をはなした
赤くなった顎をさすっている。
「・・・・」
「で?用があったんじゃないの。」
「やまざきぃ」
心臓が大きく脈うった
懐かしい声色だ
まだそんな声出せるのかよと嫌味のひとつでも言おうとしたところで
まっすぐ自分へ向いていた目が既視感の覚えるものだった事に言葉がつっかえて出なくなった
ついに白昼夢でもみてるのか、それともあまりに昔の記憶に固執するあまり被せてみているのか
わからない。でもこの視覚、聴覚を信じていいのならばこれは自分が望んでいた事じゃないだろうか
かぼそい声で沖田隊長と言ってしまったとおもう
でもそれをおそらく聞かなかったふりをしてくれたその人は、ふわりと笑って
「ミントンでもしねーかィ」
耳に残って離れずにあり続けたその口調で言った
「はっ、」
負けねーよ
ミントンの山崎ナメんな。
ニヤリと笑ってやると相手もその名にふさわしい笑みを浮かべたのだった