トリカゴ 2
声を落とした新羅が、その言葉の裏に僅かな怒りを滲ませている。あの新羅が、珍しい感情を表に出してるなと津軽の苛立ちが僅かに削がれていく。口元は笑っている、けれど目は、静かな怒りに震えているようだった。
「僕は君とサイケは同じ不幸な境遇にいる、似たもの同志としか思えないんだ」
津軽とサイケが臨むまま歌うことを利用し、津軽やサイケの人格など最早重要視してはいない。明日歌うことを辞めると言えばそれこそ死に物狂いで頭を下げてくるだろうが、どんどん他のアーティストとは別で孤立していく津軽やサイケに同情なんかしない。最近流行りの人口音声プログラムが、そっと奏でる歌すらヒットする時代。人間臭い歌い方よりも、人の声すら楽器として捕えられていく世代なのだろうかと少し、感慨を得る。また、彼らも上の腐れた連中からしてみれば、ヒット曲を生むただの道具にしかすぎないと捉えられているのが悔しい。サイケも津軽も、持って生まれた天賦の才を土足で踏みにじられている気がして腹立たしいのだ。
「津軽、君が歌う事を辞めるのはどんなときだい」
地下の駐車場へと急ぐ中、新羅が突然尋ねてくる。歌うことが今の全ての津軽が、そんな考えたこともない事を聞かれて少し戸惑い、すぐには答えきれなかった。だが、車に乗り込み、フルスモークの車が静かに会社を出るときに、神妙な顔で運転する新羅に津軽は答えた。
「死ぬ時じゃねえのか」
そう言ったきり二人押し黙り、渋滞する道を遅々と進んで手駒としての仕事へと向った。歌えなくなれば歌わない、それだけだ。だが、サイケは、もしかしたら歌う事を些細なきっかけで手放すかもしれない。それが何かわからないが、バックミラーで津軽の物憂げな横顔を眺めていたらそう思えてしまった。