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万有引力

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地面から離れずに立っていらられるのも
物がテーブルから離れていかないのも
月が地球の周りを回っているのも
全てが引力のおかげだ


じゃあ、俺が君から離れられないのは何故?



臨也と帝人は夕食を一緒に取っている。
場所はちょっとお洒落なイタリアンだ。
軽いコースを頼んで、今はメインの鴨肉のローストを食べている。

帝人は瞳をキラキラさせて、「美味しいですね!臨也さん」と感激していた。
「帝人君は可愛いね」
美味しいと告げる帝人に臨也は素直に思ったことを言った。

「何度も言ってますけど、男子高校生に向かって可愛いは褒め言葉じゃないですからね?」
キラキラした瞳から剣呑とした瞳に変わる。
やめてください、と言いながら帝人は食べるのを再開する。

ああ、可愛いなぁ。と臨也は怒られながらもまた同じことを思う。

「好きだよ。帝人君」

可愛い、は怒られたので好きだと言ってみる。
ゲホ、と帝人は咳き込んで水を飲んだ。
そして小声で文句を言う。
「お店でそういうことを言うのやめてくださいって、何度も言っているでしょう?」
確かに言われている。
しかし、臨也は帝人が好きだと思った瞬間にそれを伝えたくなってしまうので、それに大人しく従ったことは無い。

「なんで俺はこんなに帝人君が好きなのかな、って考えたんだよ。それで思ったんだけどさ」
帝人はその後に続く言葉など聞きたくないが、聞くしかないらしい。

「きっとさ、俺が君から離れられないのも物理法則によると思うんだよね」
「何を言っているのかさっぱりわかりません」

帝人は率直に思ったことを即答した。
臨也は突拍子も無いことを言い出すことがある。
まず、臨也が帝人から離れられないという現象に疑問を提示する。
離れることは可能だ。
ただ、臨也が離れたくないから帝人に会いに来るだけだ。
臨也が離れたくなったらすぐに離れることが出来る。
それがなぜ物理法則に基づいて離れられないという考えになるというのか。

「万有引力って知ってる?」

「詳しいことはわかりませんけど、重力と同じじゃないんですか?僕が今ここで座っていられる理由とか」
臨也が何を言いたいのかわからないが、会話に付き合うことにする。
臨也の恋愛理論は理解出来ないことが多いが、人の面白い考えを聞くのは好きだ。

「そうだね。重力は万有引力の一種だ。帝人君の言うとおり、こんな風に」

カシャーン

臨也はわざと持っていたナイフを落とした。
店員が新しいナイフを持って、落ちたナイフを片付けに来た。

「こんな風にさ、持っていたものを落とすと地球に向かって行く。万有引力のせいだ。でも、万有引力って地球だけが持っているんじゃないんだよ」

帝人は、ナイフをわざと落とすことないじゃないかと思ったが言わなかった。
ナイフを落とした臨也が少し怖かったからだ。
それと、ナイフを落とす臨也の手が綺麗だと少し思った。

「どんな物体でも持つ引力だから『万有』引力なんだよ。だから、今のは地球が持っている万有引力とナイフが持っている万有引力が作用したんだ」

帝人は大人しく臨也の話を聞く。
知らない知識を与えられるのは楽しい。

「全ての物体は互いに引き合うんだ。万有引力の式はF=GMm/(r^2)。Gは万有引力定数で6.67259×10^-11m^3・s^-2・kg^-1。この力で引き合っているってことだね。M(m)は物体の質量、rは物体間の距離だ」
「え?」
いきなり物理の式と細かい数字を言われて帝人は戸惑う。
慣れない式を言われても理解できない。せめて紙に書いて欲しい。
しかし、臨也は話を続ける。
「つまりね、全ての物体は互いに引き合っていて、その引き合う力はその重さが重くなれば重くなるほど、距離が近ければ近いほど大きくなるってことだよ」
その理解でいいのであれば、わかる。
だが、それがどうしたというのだろうか。

「俺が、帝人君から離れられないのは万有引力のせいなんだよ」
「今の物理法則からなんでその結論に至るのかわかりません」
臨也はくすくすと笑い出す。
少しは考えてくれたっていいじゃない、と臨也は軽く文句を言ってみせる。

「全ての物体は引かれ合う。その力は物体の質量が影響する。それで、俺と帝人君の関係でこの質量っていうのは好意にあたるんだ。感情の重さ、想いの強さってやつだね。距離は距離。定数は考えなくてもいいや。だから、好意が強ければ強いほど引かれ合う。会った回数が多くなればなるほど距離は近づいて引かれ合う。ね、俺が離れられない理由はきっと物理法則に則ってるんだよ」

なんてこじづけを考えるのだろう、と帝人はおかしくなる。
「臨也さんはそんなことを毎日考えているんですか?」
笑いながら臨也に聞いた。

「んー、そうだね。基本的に帝人君のことを考えて過ごしているよ」

「なっ!」
帝人は顔を赤く染める。
告白を何度も重ねるほど、帝人が軽くあしらうことも多くなった。
そんな帝人も悪くないが、やはり照れている姿を見るのは好きだし楽しい。

「帝人君、万有引力の式に質量のうち1つにマイナスの数字を当てはめると、質量が大きければ大きいほど力は小さくなるんだよ。実際には質量はマイナスになることは無いけれど、感情はマイナスが当てはまることがある。怖いことだと思わないかい?」

帝人には臨也が偽悪的な笑みを浮かべているように見えた。

「片方の人間が、マイナスの感情を持っていれば他方の人間がどんなに大きなプラスの感情を持っていたとしても引かれ合うことは無い。むしろ、離れる。その人間の感情が嫌で、怖くて逃げるはずなんだよ。でも、帝人君は俺の好意が大きくても逃げていかない。
それは、少なくとも帝人君の俺に対する感情がプラスのものであると考えてもいいのかい?」

「え?」

帝人は臨也から告白を受けている。
好きだと。本気なのだと。
最初は冗談だと思ったが、今はそれが本当なのだと思っている。
しかし、帝人は臨也から逃げようと思ったことは無い。
離れて行こうと思ったことも無い。

でも、それは臨也はダラーズにとって有益な情報を提供してくれる人であるからで。
それは、つまり僕は臨也さんに持っている感情は好意であるということなのだろうか?

帝人は頭の中がグルグルし始める。

「さぁ、話し込んじゃって食が進んでなかったね。食べようか」

帝人は先ほどまでは美味しいと思っていた料理の味がまるでわからなくなっていた。
ただ、臨也の話を反芻して考え込んでいた。


さぁ、考えて。考え抜いて。悩んで。
俺のことで頭をいっぱいにして。
それで俺との恋に堕ちようよ。

恋は重力加速度的に落ちていく。
自覚して、一度落ちたらどんどんどんどん速く落ちていく。

一秒ごとに速くなる。


さぁ、早く恋しよう。
9.80665m/s^2なんて定数は無視をして。
一秒毎に堕ちて行く速さが速くなる恋に一緒に堕ちよう。


物理法則を無視するなんて君には出来ないだろう?
作品名:万有引力 作家名:彼方