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伊達くんが落ちてる真田を拾ったようです

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 そういえば昨日の夜は誰かが花火をしていたと伊達は思い出した。アパートの前の緩やかな坂の途中にある公園である。高校生か、大学生か、きゃっきゃとはしゃぐ声が九時ぐらいまで響いていた。早朝のジョギングの途中、町をぐるりと回ってアパートまでもう少しというところである。冷たい水で顔を洗おうと公園の入口に近づくと、花壇近くに真田が小さくなってうずくまっている。赤いのでよく目立つ。夏の風物詩だなあと思いながら伊達は水飲み場に近づき、汗まみれの頭に水をかぶせた。温くなっている水が、きりりと冷えてくるまでそうしていた。
 ぽたぽたと前髪から水滴が落ちるので視界に薄く水の膜が張る。首に巻いていたタオルで簡単に水を拭って、頭の後ろでタオルを縛った。住宅街がじりじりと起床を始める、そんな時間である。ウェルシュコーギーとジョギングをしている老人が公園を横切っていく。ふと花壇を見ると、先程までうずくまっていた真田がむくりと起き上がって立ち上がろうとしていた。朝陽に照らされて輪郭が少しずつぼやけてゆく。伊達は腕を伸ばして、その首根っこを捕まえた。途端に輪郭がはっきりとする。空中につるされてじたばたともがいていた真田は、じきに力を失っておとなしくなった。顔を覗きこむと、ぎらぎら光る目が伊達を睨みつけてくる。しかしそれもじきに瞼の下に隠されてしまった。伊達はそっと肩をすくめて、そのまま公園を出る。落ちている真田を拾うのは、小学校のとき以来だなと思う。そういえばアパートはペット禁止だが、真田はペットの部類に入るのだろうか。
 真田というのは、夏に花火をやったあとに落ちているものである。ものと言っていいのか伊達は判らないが、人間でもないし、犬や猫のような動物でもないような気がする。そういうものとしか言いようがない。夏の風物詩である。公園や河原などによく落ちている。花火大会をやったあとの朝にはこの赤いのがたくさん落ちているらしい。真田が落ちているのを見られるのは早朝で、太陽が昇りきって空気が温もってしまうといつの間にか消えている。消える前に触ると陽が昇りきっても消えることはないが、家に持ち帰っても大体一カ月ぐらいで消えてしまうらしい。伊達が昔真田を拾ったときは、三週間ぐらいで消えてしまったような覚えがある。
 アパートのドアを開け、持って帰った真田を着古したTシャツで包んで置いておく。シャワーで汗を流し、簡単に朝食をとる。開け放した窓から温い風が入り込んでくる。今日も猛暑だと天気予報は報じている。扇風機をつけて、気休め程度に空気をかきまわした。寝汗のしみ込んだベッドのシーツを剥ぐ。洗濯機のスイッチを入れる。
 ネットで真田の食べるものを検索すると、大体なんでも食べるし、食べなくても一週間ぐらいはいると書いてあった。昔は真田になにをやっていたかと思いだそうとするが、どうもよく覚えていない。昔は珍しがってよく真田狩りをしたものだけれども、こどもというのはすぐに飽きるのだ。持って帰ったのも一度きりで、真田を捕まえてもすぐに河原に放してしまっていた。
 冷蔵庫を開けると、昨日作ってそのままにしてある茹で卵がタッパーに入れられている。すぐに食べられるようなものはそれぐらいだ。茹で卵食うかなと思いながら殻を剥いて、その白いので真田の頬をつついた。薄く真田が目を開ける。これ食えるか?と目の前で振ってやると、小さな腕が伸びてきて伊達の手からそれを奪い取った。無心に茹で卵にかぶりついている様子を、頬杖を突いて眺める。Sサイズの茹で卵はじきに真田の胃袋におさまってしまった。口元に黄身のかけらをつけたまま、真田はかしこまった様子で正座をする。かたじけのうござると頭を下げて、いっぱいになった腹をさすった。茹で卵、好きか? 好き嫌いはございませぬ、ただ甘いもののほうが好きにござる。そういうのって、個体差あんの? さて、某はほかの個体に会ったことがござらぬ故、判りかねまする。ふうん、と伊達は鼻を鳴らす。
 食事は一日に二回程度でいいらしい。次はプリンでも作ってやるかと思いながら、明日提出のレポートにとりかかる。無心にキーボードを叩いていると、すっかり時間を忘れた。デジタルの表示を確認するともう昼をとっくに過ぎている。首を左右に鳴らして大きく伸びをした。眼鏡をずらして部屋を見渡すと、真田の姿がない。慌ててきょろきょろと目を走らせ、おーいとくうに呼び掛けた。すると、ベッドの上に小さな姿がたちまち現れる。びびらせんなよー。申し訳ござらん、気を抜いてしまうと、どうも。もしかして腹減ってる? いや、そうではござらんのですが……。
 まあいいやと言い置いて、ネットでプリンの作り方を検索する。ざっとレシピを覚えて、冷蔵庫から牛乳と卵を取り出す。カラメルは作るのが面倒くさいから省略。電子レンジで全部作れるもんなんだなあと思いながら卵をほぐす。泡立て器なんてものはないのでフォーク。
 いいにおいでござるなあと、電子レンジの中でぐるぐると回るココット皿を見つめながら真田が呟いている。食べるのは冷やしてからな、と伊達は手を洗いながら真田に言って、換気扇をつけた。アパートでは台所でしか吸わないのでパッケージとライタは食器棚に入れてある。一本くわえ、カチリとライタを擦ったところで伊達はしまったと目を見開いた。慌てて振り向くと巨大化した真田がニコニコと伊達を見つめている。真田は火を見ると巨大化するのだ。一番気をつけるべき、初歩的なことを忘れていた。ではもう少し時間はございますなあと真田は腕を伸ばして、伊達の口元から煙草を奪い取った。