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D.C. : D.S.

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あお。
第一印象、というよりはじめにアイクがマルスを目にして思ったことがそれだった。自分も似たような色を持っているが、彼のあおは晴れた空のような色だと思ったのだ。
自己紹介は名前を簡単に名乗るだけのものだった。アイクに向けられた表情は笑顔と言うよりも微笑で、それは限りなく作られたものに近い表情で、アイクがそれに気づけたのか周囲は分からなかったが、「あいつはいつもあんな笑い方をしているのか」という一言に、フォックスやピカチュウやネスが揃いもそろって目を瞬かせた。
フォックスはそれなりにマルスの性格や世界のことを知っており、しかし詳しくアイクには説明しなかった。ネスもフォックスと同じだが、本人から聞けたら一番いいかも、とにっこり笑い、ピカチュウはそれにおおきく頷いた。


***


ある心地良い昼下がりの頃、洗濯物やシーツがゆらめく向こうの木立の下で、ラフな格好をしたマルスを見つけたアイクは遠い距離のまま、立ち止まった。
アイクの足元を歩いていたピカチュウも同じように立ち止まり、アイクを不思議に思いながら見上げて、耳をぴくぴくと動かしながら視線の先を見ると、木立の下で動かないマルスを見つけた。
驚いたピカチュウは持っていたりんごを地面に丁寧に置いてから駆け出した。マルスの近くまで来ると徐々にスピードを落としてゆっくりと物音立てずに近づき、またぴくぴくと耳を動かしながらマルスの俯き加減の顔を覗き込んだ。
そんなピカチュウの様子をアイクは先ほどの遠い場所で動きもせずにじっと見ていた。腕に抱えられた大量の野菜とくだものは今日の晩御飯のものでピカチュウのように地面に置くわけにもいかず、かといって様子を見に行くほど気になるわけでもなかったのだ。
アイクはずり落ちてきそうな野菜たちを抱えなおすと、マルスの元に駆けて行った黄色い生き物へと視線を上げた。相変わらずじぃっと覗き込んでいるらしい。眠っているんじゃないのか、と気になったとき、背後から二つの足音が聞こえて少しだけ振り返った。

「アイク、何してるんだ?」
「……リンク、とトゥーンか」

そこには見慣れた同じような姿をしたリンクたちが不思議な顔をして歩いてきた。
リンクよりもひとまわり小さいトゥーンは聴きなれない言葉を短く言った後、アイクもなにとはなしに「ああ」と答えた。リンクがその反応に、だいたい分かってきたのか、と言うのに、アイクは、なんのことだ、と憮然と返す。

「……いや、なんでも。で、何してるんだ?」

そんな材料抱え込んだままで。
と、リンクは夕飯の材料の多さに毎度のことながら、と苦笑いをこぼした。
トゥーンはアイクの視線に気づいたのか、リンクに何事かを告げてから向こうの木立にゆっくりと駆け出す。それからリンクは、ああ、とアイクの棒立ち状態を納得したのか、ため息のような声を出して黄色い生き物とその青年を視界に入れた。

「あれ、時々あるらしい」
「どれだ」
「仮眠、をとってるらしいんだけどほとんど息してない」
「……今のあれがか?」
「そうらしい」
「その、らしいってなんだ」
「おれは知らないから」
「……。黄色いのは知ってるようだが」
「ピカチュウは〝同一人物〟だからだ」

突き放すように言い切ったリンクはピカチュウの置いていったりんごを拾い上げ、トゥーンに向かって小声で叫んだ。
小声で叫ぶなんて器用なことが出来るもんだな、とアイクは思い、もう一度腕の中の材料たちを抱えなおそうとしたら突然重みがなくなる。視線を上げるとリンクが全部持っていた。
リンクはトゥーンに向かってもう一度小声で呼びかけて(ちなみにアイクには理解できない言語で)、アイクに背中を向けた。

「これ運んでやるから、行ったら?」
「俺が行って、どうなる」

ちら、とリンクはアイクを振り返り、その深い青い眼を細める。明らかに何か言いたそうな眼をしていたが、帰って来たトゥーンを視界に入れるとまた何事か喋り、ただ「早く行け」と吐いて屋敷の中へと入っていってしまう。
ドアが閉まる時、トゥーンがアイクにへら、と笑ったがアイクにはその笑顔の意味がよく分からなかった。同じような姿で名前も同じながらも全然違うなあの二人は、と眉を寄せながらも木立のほうを振り返る。
相変わらずピカチュウはマルスの傍にいるが、今は佇んでいるだけのようだった。覗き込むのはやめたのか、と思いアイクもマルスへと歩き出す。しゃくしゃく、と芝生が鳴る音に反応してピカチュウの耳が揺れて、傍まで寄ってきたアイクへと視線を移した。
ぴか、とピカチュウが何事かをいうがアイクには分からない。アイクはこんなに傍によってきても眼を覚まさないマルスに違和感を覚えたが、とりあえず呼吸の音がないので眉を寄せた。

「本当に息をしてないのか」「ぴかぴか」
「まさか死んでは、いないよな」「ぴ」

アイクの独り言のような言葉に律儀に頷くピカチュウに頭をやさしく撫でてやる。
ピカチュウは、ちいさく鳴きながらマルスを指差した。それが何のことか理解できないアイクは首をかしげる。

「こいつ?」
「ぴぃ。ぴかちゅう」
「おまえ」

ピカチュウはマルス、自分へと指を指して伝わっていないことを考えた後、アイクへと指差した。

「・・・俺。が、どうかしたか」
「ぴぴぃか」
「俺」
「ぴぴぃか」
「……それ名前か」

アイクの言葉にピカチュウは頷く。
ぴぴぃか、と繰り返し、アイクは自分の名前を口に出した。するとピカチュウは嬉しそうに頷いた。そして自然にマルスへと指が動く。

「マルス」

アイクはとりあえずピカチュウの指したとおりにマルスを呼んだ。
その瞬間、マルスの指がぴくりと反応したのでピカチュウがアイクに向かって、満面の笑みを浮かべた。

「ぴかぴかぴー!」
「……おい、マルス?」

二回目の呼びかけで、はっと呼吸が思い出されたかのように再開されて、そしてゆっくりと眼が開いた。
あお。アイクはマルスをはじめてあったときに思ったことをもう一度思った。マルスの目のあおに、ここにも空があるのか、と小さく呟いた。

「って、ちょっと、アイク、近いよ」
「……。ああ、すまん」

無事に起きたマルスはちょっとしたひと騒動があったことをまったく知りもせずに、至近距離のアイクの顔を腕で押して、のんきに欠伸をした。
アイクはその様子をみて小さく息をついた。自然とピカチュウと目が合い、ピカチュウは嬉しそうに鳴いてマルスに笑いかけてから、その場でくるくる回り、そして屋敷の中へと入っていった。

「……どうかしたの」
「いや、特に」
「そう。ならいいけど」
「あんた……じゃなくて、マルス」

アイクは名前を呼ぶ。それにマルスは驚いたかのように瞬きを繰り返して、びっくりした、と一言漏らした。

「やはり呼んでなかったか」
「え……うん、まぁ、そうだね」
「これからは名前でちゃんと呼ぶ」
「えっと、うん。よく分からないけど、分かったよ」

そんな困ったように笑うマルスに、アイクは、誰にも分からないような笑みを少しこぼした。



ダ カ ー ポ と ダ ル セ ー ニ ョ の 対 比

作品名:D.C. : D.S. 作家名:水乃