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紺色のコート

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「着てごらん」
兄が選んだコートは、ずしりと重かった。風を許さない緻密な織で、肩と袖がいくらか余った。
釦を立ち襟の首までしっかりと留めて、裾を直して具合を見ている。紺色の深いことはまるで宇宙のよう。鏡の中で兄と目が合った。
「どうかな」
「大好きな色だ」
「すこし大きいようだ」
「すぐ足りなくなるよ」
「頼もしいな、レイは」
弟が振り返って、胸を張ってみせた。兄は髪を後ろに寄せてやって、上等な肩の線を確かめた。
「こないだの、極冠訓練は寒かった」
「支給される防寒着は、とりあえず丈夫だ。平気だよ」
「ねえ、ふだん勲章を下げる」
「下げない。その金の釦好きかい」
「うん。偉い士官になったようだ。ラウとおんなじに」



マドレーヌとウェールズ大公。
「リボンが付いていないから、気に入らないかと、車のなかで気がついた。そればかり考えていた」
「こっちのほうがずっと格好いい」
「いいのか」
「うん、じき学校にあがるんだもの」
「ああ、ギルバートの趣味か」
「うん」
兄が笑った。弟はまだ、紺色の、金釦のコートを脱がない。




<追記>
紅茶はプリンスオブウェールズが好きです。
そんでもってギルはレイにフリルやリボンを着せたがるといいとおもう。
作品名:紺色のコート 作家名:井伊