戦争トリオ!2
「? 何で?」
俺の心からの呟きに、目の前で食べ物を口に運んでいた帝人が反応する。
「だって帝人の怪我って十中八九アイツらのせいじゃん。俺の帝人に傷つけやがって…」
苦々しい思いでそう口にする俺を一瞥し、帝人は言う。
「別に僕は容姿を売りにしてるわけじゃないし、どうでもいいよ。あと君のではないから」
「何言ってんだよ帝人ー。お前はめちゃくちゃプリティーラブリーでビューティフルだろ。自信もてって」
「はいはい、名誉毀損で訴えるよ?」
「俺の褒め言葉裁判もの!?」
ひどい言われようだ、事実なのに。客観的に見ても帝人は可愛い。美人だ。一見しただけだと普通に見られがちだが、よくよく見るととてもきれいな顔立ちをしている。
(まぁ俺としては他のヤツが気づかないほうがうれしいけど)
そうすれば帝人を独占できる。容姿云々はともかく、帝人のもうひとつの顔は特に。
帝人には秘密がある。それは、帝人が池袋最大のカラーギャング・ダラーズの創始者であること。そのことを、その表情を知っているのは限られた人間だけである。
可愛らしい童顔に浮かぶのは普段のような優しく穏やかな笑顔ではなく、冷たく鋭い怒り、そして少しばかりの嘲笑。そこにいるのは平凡な男子高校生などではなく、無色の世界の支配者だ。あんな姿、できれば他人には見せたくないというものだ。
「…そういや、お前いつから戦争に参加するようになったんだっけ?」
「んー、たぶん5月後半か6月前半ごろだったと思う」
「なーんで帝人を巻き込むんだろーなー、折原も平和島も」
「そんなこと僕が聞きたいよ」
眉根を寄せた帝人がそう言った。
「おいおい、取れなくなるぞー?」
俺はそう茶化しつつ帝人の眉間に手を伸ばす。人差し指でぐりぐり押すとはたき落とされた。地味に痛い。
「つれねーなぁマイスウィートハートは。デレはいつ見せてくれるんだ?」
「君の三回忌あたりかな」
「死後なのッ!?それも三年後!?」
容赦のなさは信頼の証。わかっちゃいるが痛いもんは痛い。
「……冷たい、冷たすぎるぞ帝人。まるでツンドラのようだ」
「じゃあ正臣のギャグの寒さは氷河期並みだね!」
「輝く笑顔で止め刺された!」
もはや再起不能だ。
「…………」
「……正臣?」
「………………」
「…はぁ、しょうがないなぁ」
そう呟いて帝人は机に突っ伏した俺に顔を寄せる。
「好きだよ」
「マジですか!!」
耳元で囁かれた内容に一瞬で顔を上げる。
「うん、そういう単純なところとか寒いギャグを飽きずにいえるところとか、いつも無駄に高いテンションとか」
「褒められてる気がしないんだけど!?」
「あ、あと馬鹿なのに黄巾族の将軍なんてやってる非日常的なトコも」
「非日常に負けた俺!」
複雑すぎる理由だ。帝人はほんとに俺のことを好きなのだろうか。
「僕を喧嘩に巻き込みさえしなきゃ、臨也も静雄も好きなんだけどね」
「あー、確かにあの2人は非日常だよなー」
「うん。でもやっぱり僕を引っ張り込むから2人とも嫌いだ」
きっぱり言い切った帝人。その辺踏まえると戦争コンビと仲が悪いのもいいかもしれない。帝人に危害を加えるのはいただけないが、そうでもなければきっと帝人はあの2人に心惹かれていた。それはだめだ。絶対だめだ。非日常レベルで言ったら間違いなくこちらが負ける。何せ相手は池袋の最強と最凶だ。
「ていうかそんな事よりお風呂入らない?さっさと入って遊ぼうよ」
「え、何、つまり一緒に入浴フラグ?OK、ならば今すぐ行こう」
「だが断る」
「ジョジョ!?」
翌日の雷神高校
(おはよう帝人くん。昨日はどうだった?)
(ああ新羅、おはよう。うん、久しぶりの泊まりで楽しかったよ)
(…臨也、静雄。頼むから不機嫌オーラを撒き散らすな)
(何言ってんのドタチン。俺のどこが不機嫌だって言うのさ)
(………)
(ほらほら静雄、無言でドタチン睨むのやめなよ。ドタチンが哀れな子羊のように震えているじゃないか)
(ああ、今日けっこう冷え込むもんね)
(いや震えてねぇから)
(あー、一限目サボろっかな)
(そのまま帰れ、むしろ死ね)
(シズちゃんが死ね)
(2人とも死んだらいいんじゃない)
((だが断る))
(なぜにジョジョ?)
(きっと再ブームがきてるんだよ。てゆーかどうせなら皆でサボろうか)
(んー、僕は遠慮しておくよ。どうせサボるなら五、六限目がいいし、一限目からサボったって正臣…幼馴染に知られたもの凄くウザ…うっとおしそうだし)
(あはは、言い直した意味ないよ帝人くん)
(だからそんな鬼のような形相をして黙り込むなよ、お前ら)
(…俺、やっぱ授業出る)
(………)ガタガタッ(無言で席に着く静雄)
(いやー、今日の授業は楽しくなりそうだ!)
(お前ら以外には地獄だな)
(『お前ら』っていうか京平も含まれてるけどね)