羊で乾杯!
ギルベルトはとても勝気な羊で、狼などにも果敢に立ち向かいます。昔はよく手傷を負って帰ってきていましたが、最近はそういうことも減りました。性格が丸くなったと専らの噂です。
ルートヴィッヒは昔はギルベルトに守られてばかりでしたが、今ではムキムキの立派な羊になりました。この前など、はぁはぁ言いながら寄ってきた狼のフランシスを見事に一本背負いした程です。
ある日ルートヴィッヒが夕ご飯のヴルストを茹でていると──羊なのに彼らはヴルストが大好物なのでした──ギルベルトが意気揚々と帰ってきました。手に何やら大きな袋を抱えています。
「おかえり、兄さん」
「おうただいまルッツ」
「その袋はどうしたんだ?」
挨拶のハグもそこそこにルートヴィッヒが尋ねると、ギルベルトは得意げな顔になりました。あぁこれなー、と言いながらごそごそ袋の口を広げます。袋から手を抜いた時、彼の手には瓶が握られていました。ラベルの麦のマークから察するに、中味はビールのようです。
ルートヴィッヒは尻尾をもふもふと動かしました。ビールも彼らの好物なのです。特にギルベルトが持って帰った銘柄はなかなか手に入らない貴重品でした。
けれど、どうしてそんな物をギルベルトが持って帰ってきたのでしょう。ルートヴィッヒは疑問に思いました。なので、上機嫌に栓抜きを取り出すギルベルトに向かって問い掛けました。
「しかし…どうやって手に入れたんだ?」
「持ってた腰抜け狼からかっぱらってやった!」
などと言って、ギルベルトはケッセー!と独特の笑い声を上げます。ルートヴィッヒは怒鳴りたいのを懸命に堪えました。そんな危ないことをして、と言ったところでこの兄が真面目に聞いてくれる筈がありません。言い聞かせるのはベッドの中でも十分に出来ます。
ルートヴィッヒは丁度時間になったので、ヴルストの鍋を火から降ろしました。そして美味しそうに茹で上がったヴルストをザワークラウトと一緒に皿に盛り付けます。ギルベルトは栓を抜いたビールをジョッキに勢いよく注いでいるところでした。
食事の準備がすっかり整うと、二人はジョッキを掲げてこつんとぶつけ合いました。
「「Prosit!」」
二人の声が重なります。その日の食事はいつもより楽しく、和やかに過ぎていきました。大好きなヴルストとビールは二人で一緒に味わうからこそ美味しいのです。