二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

Trick or Treat!!

INDEX|1ページ/1ページ|

 
ほい、と渡されたそれは、可愛らしいオレンジの小さなカボチャだった。
正確には、カボチャの形をしたプラスチックの入れ物。てっぺんが蓋になっていて、緑の取っ手もついている。
「……なんすか、これ」
「可愛いだろー?」
静雄の問いに、トムはにこにこと答えにならない答えを返した。
「可愛いっすけど……」
もちろん静雄も、これが何かを聞きたいわけではない。
どうしてこんなものをくれるのだろうかと困惑して眉間にシワを寄せる静雄に、トムはうんうんと頷いてから単純明快な答えを口にした。曰く、「今日ハロウィンじゃん?」。
言われて、ようやく静雄は今日がハロウィンだったことに気がついた。ずいぶん前から街はハロウィンの装いをして浮かれていたが、あまり行事ごとに関心のない静雄にとっては、いつが本番なのかわからなくなるだけである。ようやく気付いた時にはもう、あと数時間で終わってしまう有様だ。こうして今、トムが話を持ち出してくれなければ、忘れたまま過ぎ去っていただろう。
「でもこれ、どうしたんすか」
今日これをくれる理由はわかったけれど、次に生れたのはまたしても素朴な疑問だった。
誰かにもらったのだろうか。そう思いながらなんとなく蓋を外すと、中にはチョコレートやら飴やらがたくさん詰まっていた。甘い香りが、微かに広がる。
「事務の女の子たちがな、持ってたんだよ。んで、聞いてみたら西武で売ってるって言うからよ」
買ってきちまった、と照れくさそうに笑うトムに、静雄は驚いて言葉を詰まらせた。それから、トムが珍しく昼休みに別行動を取っていたことを思い出す。
「もしかして昼休み……わざわざ、買いに行ってくれたんすか」
トムの顔をまじまじと見つめて問うと、トムは少し困ったように眉を下げて、そんなおおげさな話じゃねえよと手を振った。
「ほら、せっかく今日しかねえからさ。おまえ、甘いモン好きだろー?」
冗談めかして、静雄の頭をぐしゃぐしゃと撫でる。静雄はその大きなてのぬくもりに、胸がきゅうっと締めつけれられる。
「ありがとう、ございます……」
なんと言えばいいのかわからなくなって、消え入りそうな声でせいいっぱいのお礼を口にした。それだけでも、トムは嬉しそうにおう、と笑ってくれる。
「なんでしたっけあれ、トリック、オア……」
「トリート?」
「そう、それ! ……おれ、言ってないっすよ」
困ったように上目遣いに申告した静雄に、トムは一瞬きょとんとしてから吹き出した。
「なんだよー、んなこと気にすんなって! つーかあれだ、おまえだったらトムさん、どんなイタズラしてもらえんのか気になっちまうぞ?」
「なっ……なに、言ってんすか!」
わざとらしくいやらしい口調でにやにやと笑われ、静雄は思わずその言葉の意味を邪推してしまい真っ赤になる。
それにはっはと笑い声を立てて、トムはそうだ、と静雄の手の中のカボチャを指した。
「静雄。それ食ってみ?」
「え? あ、はい」
言われるがままにチョコレートをひとつ、可愛らしいコウモリが描かれた銀紙を剥いて口に入れる。
甘い。
思わず頬が緩みそうになった静雄に、トムは間髪入れず、
「トリックオアトリート」
「……え?」
不意打ちのように言われて、静雄は僅かに焦った。
自分には、何もあげられるものがない。当然だ。今日がハロウィンだということを、忘れていたのだから。
「あ……すんません、おれ何も……」
持ってないっす。申し訳なくそう呟くと、トムは全く気にするそぶりもなくにこにこと笑って言った。
「んじゃ、それチョーダイ」
それ、と静雄の顔を指さしたトムに、静雄は小さく首を傾げる。
「これっすか?」
もらったばかりのカボチャの入れ物を指さすと、トムは首を振って、静雄の顔に手を伸ばした。
「いんや? コッチ」
言って、指先で唇を撫でる。
ようやく意味を理解して真っ赤になった静雄に、トムは誘うように視線を絡めて、ダメか? とわざとらしく問うた。
静雄の心臓が、期待にどくりと波打つ。
けれど。
「だ……め、っす……」
なけなしの理性を振り絞って、静雄は紅く染め上げた首を振った。
だって、ここは。
「事務所で、そういうのは……ちょっと」
困った顔で、トムの後ろに視線を投げる。
もちろん誰もいないけれど、整理されていたりされていなかったりの事務机が並んで、静かに佇んでいる。
静雄の部屋でも、トムの部屋でもなく、ましてやそういうことに使うホテルでもなく、会社の事務所。
たまたま静雄が今日壊した郵便ポストの始末書を書き終わったとき、残っていたのがトムと二人だけだったために、こんな流れになっただけなのだ。
こんな場所で今そんなことをしてしまえば、毎日ここに来るたびに思い出してしまいそうでたまらない。
「……やっぱそうか」
「……うす」
はは、と乾いた笑みを浮かべたトムに申し訳なく頷いて、それから静雄はでも、と小さく付け足した。
「トムさん家でなら……いいっす」


二人が、寄り道もせずにトムの家へ向かったのは、言うまでもない。

ハロウィンの夜は、まだまだこれから……?
作品名:Trick or Treat!! 作家名:ユトリ