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似非シリアス

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【臨→帝】

 親友に相談したら、それはストーカーという種族だぞ帝人、次に会ったらこの俺の助けを呼ぶんだ!という変なポーズ付きで忠告を受けた。同じクラスの優しい少女にそれとなく話してみたら、綺麗な顔が曇ったのでそれ以上話を続けることを必死に阻止し、別の話題を探した。ダラーズの皆に話してもいいのだけれど、匿名で話すには少々難しい問題であったし、だいいちとってもバレバレだ。要するに解決策というのは周りからではなく自分で導く必要があるらしい。帝人は非日常が好きだ。だからこの状況は、ともすれば楽しむべきものなのかもしれないけれど、ちょっと厄介だとは思う。
「帝人君、どう?おいしい?」
「はぁ…」
 曖昧に相槌を打って食後のデザートを食べた。目の前には新宿にいるはずの――失敬、新宿にいるべきであるはずの男がソファにゆったり腰掛けている。それはよかった、と彼はさも楽しそうに笑って帝人を正面から見つめた。いつからか彼に誘われて夕食を共にするようになった。帝人の暮らしぶりを見た彼は「貧乏学生の一人暮らしのテンプレートだね、すばらしい」という感想を述べた後に、暇ならおいでと夕食に誘ってきた。それが始まり。それ以来不思議な夕食会は今日のように彼のお勧めの店で行われる。人間に興味がある彼は人間の食べるものにも相応の興味があるのか、連れていかれる店はいつもとても美味しい料理を提供してくれた。彼は学校帰りだったり休日だったりする帝人をうまい具合に拉致しては、こうやって店に連れ込む。――連れ込む、だって。帝人はくすりと笑った。奢りでご飯を食べさせてもらう、その代わりに自分の持っているダラーズ創始者としての情報を提供する。そして自分という人間を観察させている。連れ込みよりも、やはり拉致が適切だ。笑った帝人をじっと見ていた臨也は、何か面白いのかい、と歌うように尋ねた。
「笑っちゃうくらいデザートが美味しい、とか?それは傑作だねぇ」
「美味しいのはあってますよ。ありがとうございます」
 笑った理由には特に触れずに頭を下げると、臨也はケラケラ笑った。彼は既に食事を終えていた。それでも先に帰ることなく帝人をひたすら待つのは、やはり観察欲によるのだろう。臨也は笑い終えると身を乗り出した。細い眼が帝人の目の前にやってくる。何かを企んでいる顔だった。
「さびしいね。そうやって君は理由を言ってくれないからかな」
「寂しい?」
「そう。君の日常はそこで完結しているのかもしれないけどね!」
 ばっ、と両腕を広げた彼に帝人はもくもくと口を動かしてデザートのケーキを食べ続け、はあ、と相槌を打った。
「俺が人間が好きなことは知っているだろうけれど、君は特別なんだよ!」
「特別…ダラーズ、ですか?」
 帝人はきょとんと目を丸めた。まあこの歳であの組織の創始者というのは随分興味深いだろうが、折原臨也の「特別」からはちょっと危ない臭いがした。当然のように臨也は首を振り、まあちょっとは興味あるけども、と前提を削いだ。
「俺は別に、君がダラーズを作っていなくても十分興味があったね。だって君の非日常は誰かの日常でしかないわけだからさ、いつかは日常に舞い戻ってしまうわけで」
「…臨也さん、人の行動理由を勝手に奪わないで下さい」



【静→帝】

「殺す!殺す殺す殺す殺す!」
 帝人は飛んでいく自販機と標識と人間を見ておぉ、と感嘆の声を漏らしていた。またしても不用意に池袋に近づいた例の彼が静雄によって粛正され、正されることはなくとっとと帰っていったのである。傷一つ負わせられず悔しかったのか静雄は興奮冷めやらず、その後に飛びかかってきたチンピラ風の男達も一掃してしまった。流石だ。危ないから下がってろと最初に言われたのだが、やはり彼の圧倒的な力が好奇心をそそって帝人は彼のすぐ後ろにいた。彼が通った後は台風一過のようである。そう、自然災害とでも呼ぶにふさわしい。絶対的な力の前では愚かな人間は全て薙ぎ払われて、狡猾な人間しか生き残れないのだ。そうか、自然と人間の戦いという構図なのか。二十四時間楽しそうな彼らに帝人は合点がいって、なるほど、と呟いた。彼らが戦わねばならないのは十二支における鼠と猫にすら近いと思っていたのだけれど。宿命ではなく、運命だったか。
 静雄は気が済んだのか、地面に手にした標識を置いた。止まれと赤で記されたそれは頭の部分がひん曲がり、静雄の馬鹿力によりアスファルトを穿ち、その場に直立した。彼は肩を回して息を吐き出す。それから帝人を振り返った。優しい眼差しだった。
「大丈夫か、竜ヶ峰」
「あ、はい。大丈夫です」
 彼は自分のバーテン服が煤けて汚れているのも気にならないのに、帝人が少しでも池袋の事件に巻き込まれると心配で堪らないらしい。不思議な人だなあと帝人は思っていたが、いい人なのだろうと片付けていた。誰より平和を好む平和島静雄という男は、平和の権化のように平々凡々とした帝人を気に入ってくれたのだろう。少しだけ申し訳ない気分になるのは、自分は平和よりも変わった事件の方が好きであるということだ。(ただし、件の首なしライダーに関してだけは、二人の意見は一致していた。)静雄はほっと安堵したように顔を緩ませる。もし、彼の日常が暴力と破壊なら、この表情はきっと彼の中ではイレギュラーに違いない。それが見られたならうれしい。帝人はいっしょになって微笑んだ。理由は少々小難しかったが、原因と結果の両端を結ぶだけなら静雄が笑ったからうれしくてつい笑った、で説明は事足りるし間違ってはいない。帝人の笑顔を見て静雄はさっと頬を染めると視線を逸らした。それからもごもごと、あのな、竜ヶ峰。ちょっと困ったふうに口を動かした。
「お前、あんまりあいつに近寄るなよ」
「あいつ?臨也さんですか?」
「あぁ、なんかよくわかんねぇけど、それだ」
 池袋に臨也がやってくるのを嫌がる理由はわかる。池袋で臨也が何かするのを気味悪がるのもわかる。けれど、自分が臨也と会って食事をしたからといって、何か静雄にマイナスになることがあるだろうか。よくわからなかったので、すみませんと素直に謝った。静雄はサングラスを向こうの瞳を丸くして驚いた。彼の立つ地面が少し傾いた気がしたが、気のせいだろう。
「何で謝るんだよ?」
「いや、よくわからなくて…あ、次に臨也さんと会うときは池袋じゃない所にしてもらいますから。それなら静雄さんも平和ですよね?」
「……」



つづきは本にて。
作品名:似非シリアス 作家名:碧@世の青