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イツカノミライ

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一緒に住みたいですとか言ったら名取さんはどう思うかな……。

ふっと考えてみる。だが夏目は本気でそんなことを考えているわけではない。藤原夫妻に引き取られて、そしてこのままその家で暮らすことが幸福だとわかっている。そしてそれを夏目自身も強く望んでいる。名取と暮らしたいなどというのは単なる戯言。実現する気もさせる気も、ない。
だけど。好きだと告げて恋人となって。二人きりで旅行もして。不満などないし幸福だというのに。
「おれ、ワガママになってきたのかなあ……」
もっともっとと先を望む。
塔子さんがいて滋さんがいて田沼も多軌も北本も西村もニャンコ先生も……それから三篠とか中級とかヒノエとかみんなみんな一緒にいて、そしてそこに名取さんも居て欲しい。人間だとか妖だとかの差別なくただ全部を大事にしたい。
だけどそれだけでは足りない気持ちが近頃の夏目にはあったのだ。だから、一緒に暮らしたい。名取と二人きにりなりたいの意味ではない。手にしたもの全部を取りこぼしたくないだけだ。
「君はもっと我儘を言ってくれてもいいと思うけれどね」
名取は夏目を抱きよせて、そうして戯れのように髪を撫ぜた。
「あ……。おれ、声に出して言ってました?」
名取に告げた気は無かったのだろう。夏目は驚いて名取を見る。
「うん。夏目がワガママになるのはいいことだと私は思うけど?」
その言葉にほんの少しの勇気をもらい、夏目は名取の胸に頬を預けた。
「一緒に暮らしたいなあとか思ったんです。……その、名取さんとおれが」
「うん」
返事以上の言葉を挟むことなく、ただ名取は夏目の言葉に首肯した。
「でもそれは……おれが藤原の家を出るとかじゃなくて」
「うん」
「二人暮らしとかするとかでもなくて」
「うん」
「なんて言ったらいいのか分からないんですけど……このままでオレは十分幸せなんですけど」
「うん」
「……もう少し一緒に居られたらなあって思っただけです」
夏目はそれ以上はもう何も言わなかった。名取は少し考え込んだように黙っていた。窓の外はもうオレンジ色に深く染まり始めている。そろそろ、夏目を帰宅させなくてはならない時間だ。そして、また次に会える日までは夏目は学校へ通い、名取は妖払いの裏の仕事と表の俳優の仕事に時間を取られる。そうそう頻繁に会えはしないのを、こんな夕暮れ時には少し寂しくなるのだろう。名取は抱き寄せていた夏目をそっと離す。そうして穏やかに笑いかけた。
「今すぐにではないけれどね」
「はい?」
「そのうちきちんと藤原夫妻にご挨拶に行って」
「名取さん?」
「そうして君のあの家で、私も一緒に暮らせたらいいなあと、そう思うよ」
「は……い?」
「先は長いけれどね。まずは君の大事な人達みんなに私達のことをきちんと理解してもらって、男同士では結婚なんて制度上は無理だけれど、だけど、好きだということは認めてもらいたいからね」
「名取さん……」
「今はまだ、ずっと一緒は無理だけれどいつか、ね」
その為の努力くらいはしていこうよ一緒に。そう告げてきた名取に夏目は「はい」と微笑んだ。


‐終‐
作品名:イツカノミライ 作家名:ノリヲ