ファンタジーもどき
そしてその契約は絶対であった。
どのような生き物でも、帝人の契約の中では彼に絶対服従せざるをえない。
自由意思があろうとも、帝人が命令を口にするだけでその意識は帝人のものとなる。
その気になれば、帝人は世界を支配することもできるだろう。
しかし帝人はそれを望まなかった。
碌でもない人間たちが帝人を利用しようとあらゆる手を講じても、一瞥することすらしなかった。
ただ、大切なひとたちを護れればいい。
それが世界で唯一の能力を持つ少年の願いだった。
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矢でも掠ったのか、左肩がじくじくと痛い。というか熱い。
触れてみれば、掌に血が付いた。油断したなぁとため息を吐いて、取り囲む人の群れを見やる。優位を感じているのか、あまり品の良いとはいえない笑みを浮かべる男たち。統括があまり為されていないのを見ると、どこぞの金持ちに雇われでもしたごろつき共の集団だろう。
ちっぽけな子供一人捕まえるために御苦労なことだと、半ば呆れてしまう。
「手こずらせやがって、うっかり傷つけっちまったじゃねぇか」
「いいんじゃねぇかぁ?雇い主様は生きて捕らえろっつったけど、傷付けんなっては言ってねぇしよー」
「ははっ、それもそうだ!」
げひゃひゃひゃとこれまた品の良くない笑い声が響く中、窮地に追い込まれているはずの帝人はぼんやりと(めんどくさい)と思っていた。
(傍に静雄さんがいなくてよかったかも。絶対即行でキレてる)
帝人が契約をしているひとり、平和島静雄は力のスキルが他のどんな生き物よりも抜群に高い。そしてキレやすい。頭に血が上った静雄の戦闘は地形が変わるほどだ。
幸か不幸か、今は帝人が頼んだ御使いで傍に居ない。とはいっても、帝人が喚べば彼らはどんなに遠い場所に居ても駆けつける。それが契約というものだ。
(このままだと捕まりそうだしなぁ。それはそれで面倒なことになりそう。てか、なる。怪我もしちゃったし。・・・・・あれ、もしかしたら僕やばい?)
契約をしている者たちは総じて帝人に対して過保護だ。
特に静雄ともうひとり、折原臨也の二人は周りが引くぐらい帝人を溺愛しているといっても過言ではない。ゆえに、帝人が怪我をすることを嫌う。原因がひとであると、屍すら残らないほど怒り狂う。そして油断した帝人に『お仕置き』するのだ。
帝人の顔がざあっと青ざめた。
(やばいやばいやばい別の意味でやばい!どうしよう誰かを喚ぶべき?!正臣?いやでもこの前の戦闘での傷がまだ癒えてなかったはず。えとじゃあ園原さん?相手は男だから罪歌でも大丈夫だよね)
女性に護られるのは正直切ないものもあるが、背に腹は代えられない。
帝人は、未だ優位に笑っている男たちをきっと見据えて、契約を交わしているひとり、園原杏里の名を喚ぼうとした時、
ドッゴーーーーーーーーーーーーーーーーーーンッッッ!!
隕石が降って来た。
「てめぇら・・・・・」
もくもくと上がる土煙りの中、片手に岩石を持ち上げた金色の獣。
「ひとの主人に手ぇ出すってんならそれ相応の覚悟を決めてんだろうなぁぁぁぁッ!!」
岩石の嵐に下卑な笑い声が一転、野太い悲鳴に変わる中、帝人は別の意味で「終わった・・・・」と呟いた。
(みーかーどーくーん?)
(ぴゃっ、・・・・な、何でしょうか、静雄さん)
(俺言ったよなぁ?危なくなったら即行で喚べって)
(え、や、まあ、その)
(しかも怪我してんし、なあ)
(いや、このぐらいどってこと)
(あ゛あ゛?)
(ないことないですねハイ)
(・・・・・・・・・・・・・)
(・・・・・・・・・・・えーと)
(・・・・・・・・・・・・・)
(・・・・・・・・・・・・・ゆ、ゆるして☆)
(お仕置き決定)
(何で!?)