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 デモーニオが失明した。
もう戻ることはないだろう、という医師の宣告が部屋に響く。
突き刺さるように静まり返った空気が、この世でもっとも残酷だった。


 ミスターK……もとい影山零冶は、チームKのメンバーに与えたプログラムの
中で特に強力なものをデモーニオに与えた。
 それは痛覚を麻痺させることにより肉体鍛錬の限界を越え、筋肉量を急激に増
幅させることにより短期間で素晴らしい力を与えてくれはしたが、成長途中のこ
どもの身体にはあまりにも負担が大きすぎた。
 溢れた力は肉体を蝕み身体の機能を破壊する。
まずは、感覚器官を。

 イタリアと日本の混合オルフェウス対チーム・K。
憎しみと悲しみしか産まない試合の終了のホイッスルが鳴ったとき、デモーニオ
の様子が急変した。
 身体は震えだし、額から滝のような冷や汗が流れ、顔は青ざめる。心配し駆け
つけたチームKメンバーがデモーニオを取り囲んだものの、デモーニオの小さく
開けられた唇は「ボールは……みんなは、どこだ」とただ紡いでいた。

 デモーニオは光を失った。
サッカーという希望の光によって、デモーニオは、世界の光を失った。
そんなデモーニオを鬼道は――俺は、見つめることしかできなかった。
ただただ遠くから、見つめていた。

 影山はそんな鬼道の様子を見、ひどく満足気な笑みを浮かべていた。
まるで自分の書いた筋書き通りに、駒が自ら進んでいるかのように。



 どうしてこうなったのか。これは正しいのか。知りたいとも思わないし、知ろ
うとも思わない。
いまデモーニオは俺と共に暮らしている。
日本の、鬼道邸で、共に。
 昼は庭に出て日を浴び、夜は本を音読する。
着替えは俺が一から十までサポートし、食事はゼロから十まで俺が手伝う。
 身寄りの無いデモーニオと寝食を共にし、いわゆる「お世話係」を務めること
で俺は贖罪をしているつもりなのかもしれない。
影山が絡んでいる事件には、いつもその根底に俺という存在が沈んでいるのだか
ら。
 こうすることが正しいかなんて、誰にもわからない。
俺にも、デモーニオにも、養父さんにも、監督にも、チームメイトにも、……神
様にも。
ここにあるのは事実だけだ。
俺が提案し、デモーニオがそれを受け入れたというその事実だけだった。



 以前一度だけ、デモーニオに「すまない」と言ったことがある。
 その日は空は青く澄み切り、綿のように白い雲が浮く気持ちの良い快晴の日だ
った。
庭に出るには絶好の天気で、移動するときにはいつものように俺のシャツのすそ
をデモーニオに掴ませていた。
お陰で俺の服は全部、少しよれよれである。
 しかし、これがいまのデモーニオにとって「目」であった。
俺がデモーニオの目になっていた。

 庭に咲いた草花や木々は日に照らされ、それぞれがそれぞれの精一杯の色を主
張していた。
 この世には、色が、溢れている……。なのに、もう、デモーニオは――!


「デモーニオ……すまない」

 俺の頬に何か冷たいものを感じた。俺の目から液体が流れ落ちてきていた。そ
れは止まらなかった。止まらない。
 嗚咽が混じり呼吸が乱れる。
みっともなくむせび泣く俺に、目に包帯を痛々しく巻いたデモーニオは穏やかに
言った。

「キドウのせいじゃないさ。だから、そんな顔して泣くなよ」

 俺は泣き止むことが出来なかった。
流れ落ちる涙は、太陽の光がきらめいて、美しい虹色をまとっていた。




 日は眠り、月が目覚める。
昼の光はなりを潜め、夜の闇があたりを支配する。
食事も入浴も済ませ、おそろいの寝間着に着替え、デモーニオの包帯も巻き直し
、また今日も一日が終わろうとしていた。
 床には二人分の布団が敷いてある(もちろん俺が敷いた)。
真横にはベッドが置いてあるが、デモーニオと暮らし初めてからは「本来の用途
では」しばらく使っていない。
脱いだ服や本が散らばる、物置と化していた。
 先にデモーニオを右側の布団に寝かせ、布団を掛ける。幼子をあやすかのよう
に二、三度頭を撫でてから立ち上がり、照明スイッチの元へ向かう。

「電気、消すぞ」
「ああ」

 意味のないやり取りでも、デモーニオは当たり前のように返事をするので、一
応断りを入れておくのが癖になってしまった。
このやり取りは毎晩繰り返される。ただ寂しさだけが俺の中に積み重なっていっ
た。
 真っ暗な中、目を凝らし左側の布団に潜り込む。するとすぐにデモーニオが右
手を伸ばし、俺の寝間着のすそを掴む。少しでも離れ離れになるのが恐ろしいか
のように。
 しばらくすると、今度はデモーニオ自身が俺の布団の中に潜り込んできた。俺
の腕の下にうずくまるように身を小さくして、俺に密着する。
少し寝苦しいが、デモーニオは俺を頼っているのだろう。そのダイレクトに伝わ
るその気持ちが、うれしい。


「キドウ、まわりが真っ暗だね」

「そうだな」

「真っ暗だね」

「ああ」

「いま、何時くらいかな」


 そう訊かれて、俺は壁に掛かった時計に視線をやった。
 部屋は暗いが目は闇にもう慣れたようで少し凝らせば針は見えた。
 時刻は、23時45分を打とうとしていた。
 23時45分だ、と伝えたがデモーニオは返事をせず、ただ俺を強く抱き締めた。

 強く強く、俺を抱き締めた。


作品名:2345 作家名:おとり