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雨ふった電車にて

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 間もなく電車が到着します、と駅にいつものアナウンスが流れた。
 ふと円堂が顔を上げたので横にいた鬼道も釣られるように顔を上げると、空は濡れたねずみのように暗い灰色をしており、
雲間からは雨がポツポツと降り出していた。空気も冷たく湿っている。
朝は雲ひとつない晴れ模様だったというのに急に降り出したとは、これは相当気が滅入る。
そんな鬼道の心情をあざ笑うかのように雨足はどんどん強くなる。
だが運の良いことに、鬼道は折り畳み傘を持っていた。どうやら前回鞄に入れたまま出し忘れていたようだ。
この駅のホームには屋根があるので今は濡れなくて済むが、問題はその後だ。
電車を降りて移動する頃にも雨が止まずに、さらにはこの傘がなかったら大変だなと鬼道は想像していたその横で、間抜けな声を円堂があげた。

「やべー! 傘持ってない!」

 案の定というか期待を裏切らないというか、思わず鬼道は笑いを漏らした。

「俺は持ってる」

 鬼道はフンと鼻で笑ってみせると、このキャプテンは感嘆の言葉をあげた。

「向こう着いたら入れてくれよ!」
「断る」
「何でだよー」
「男同士で相合い傘なんてまっぴらだ」

 ぶうぶうと文句の声をあげる円堂を尻目に鬼道は軽くあしらいながら雨に濡れて到着した電車にそそくさと乗り込んだ。
円堂の扱いには慣れたものである。


 電車はスピードを上げてなかなかの速さで次の駅へ向かっている。
雨粒は窓に当たり一本の線になって幾つもの斜線がガラスに描かれ、その先には目まぐるしく移り変わる景色が広がっていた。
隣には円堂。先程からずっと外の景色を眺めているがその表情はなんともだらしがない。
もっと気を引き締めろ、とでも忠告してやろうか。と思ったその矢先、

「なあ鬼道」

だらしのない表情は外に向けたまま、円堂が話しかけてきた。

「電車乗ってるときさ、外の家とか建物あるじゃん」
「そうだな」
「屋根とか屋上あるじゃん」
「ああ」
「そこに架空の忍者を走らせると面白いんだぜ!」

とつとつとつ、と何とも微妙な間があく。

「……どこが面白いんだ?」

そう返事するやいなや円堂はぎょっと顔をこちらに向け必死に説明をし始めた。
忍者が屋根を走り回るさまを想像するのがどんなに楽しいか、第一ただ電車に乗ってても暇じゃないか、
風丸ならわかってくれるしあいつは伊賀の忍者派だけど俺はハットリくん派だの、
よくわからないことを身振り手振り混じえて説明していたが
鬼道にとってはその内容よりも円堂の必死さに顔を綻ばせ、くつくつと笑った。

「なに笑うんだよー!」
「必死だな、と思ってな」

その一言で円堂は機嫌を損ねたのか、ぷいと鬼道とは反対側を向いてしまった。
なんとも子供のようにころころと調子を変える男だな、と度々思う。

「鬼道のばーか」

罵倒されてしまった、こんな下らないことで。
最もふさわしい受け答えを導き出すため、若き司令塔の頭はいつになく早く回転した。
こんな時、キャプテンの機嫌を治す方法はといえば――

「向こう着いても傘に入れてやらんぞ」
「えっ!? 入れてくれんの!」
「嫌なら構わないが」
「やりい! 相合い傘!」

打って変わった態度に苦笑を漏らさずをえない。
調子のいいやつだ。まったく。



 だが電車を降りる頃には、雨は止んでいた。
先程までの強い雨足は嘘のように、残っていたのは もわりとした湿気と大きな水溜まりだけだった。
ちょうど良いタイミングで雨が上がったというのに円堂はなんともだらしがない顔をしている。

「相合い傘できなくなっちゃったなあ」
「馬鹿言え」
「せっかく鬼道が乗り気になってたのになあ」
「ああ、あれか」

鬼道は言葉を続けた。

「あんな急に強く降り出した雨なんて、すぐ止むに決まっているだろう。」

円堂はぎょっとした。
鬼道はフンと鼻で笑った。

 円堂の扱いには、慣れたものである。


作品名:雨ふった電車にて 作家名:おとり