はっぴい・はっぴい・ばーすでー <前編>
信じていた山本すらこの始末。深々とため息をついたツナヨシに物静かな、けれど可憐な声がかけられた。ツナヨシの<霧>の守護者、クローム髑髏である。
「あの、ボス、これ私とムクロ様から」
ガラガラと業務用の台車をひいて、クロームが持ってきたのは巨大な箱。カラフルでファンキーなラッピング(笑う南国果実のプリント地に藍色のリボンという目に痛い組み合わせだ)が施された、ツナヨシの身長ほどもありそうな箱である。
「あ、ありがとう。クローム・・・・」
クロームの方へ振り返ったツナヨシだったが、そのサイズと箱から漂う怪しすぎる気配に笑顔が凍り付く。
「うん、念のために聞いておくけど。これ、誰の発案?」
「えっとね、プレゼントはムクロ様が選んだの。ボスは絶対喜ぶはずだって。私はラッピングしたの・・・はじめてだったからうまくできてないけど」
モジモジと下を向いて頬を赤らめたクロームの肩に、ツナヨシはポンと両手を置く。
そして顔をあげたクロームににっこりと微笑みかけると、やさしく囁いた。
「そんなことないよ。ほんとにありがと、クローム。あまりに綺麗なラッピングで破るのもったいないから、しばらくこのまま置いておいてもいいかな?」
「ボス・・・うん、わかった」
にっこりと微笑みあうツナヨシとクローム。
ここに、ツナヨシの精神的疲労の危機は回避された。
『ちょ、待ちなさい!キミたち!!ボクがいつからこうしていると思ってるんですか!!』
その瞬間ガタガタと箱が動き、中からあわてた声が発せられるが、なごやかにパーティー会場の団欒へと戻っていった二人には、知る由もなかった。
いや、ツナヨシに限っては気付くつもりはなかった。
死ぬ気で無視だ。視界に入れることも全力で拒否するつもりである。
かくして、誰の目にも触れられないよう、会場の片隅にひっそりと安置された巨大な箱。パーティーが終わって撤収作業すら終了しても、しばらくはそのまま放置されることとなった。合掌。
パーティー会場の団欒へと戻ってみれば、毎度おなじみ相変わらずの声が響いている。
「んひゃひゃひゃ!!すんごい御馳走いっぱいなんだもんね。
ランボさんが、じぇ~んぶ食べてやるんだもんね~」
「コラてめぇ!アホ牛!!ふざけんな」
にぎやかに追いかけっこを繰り広げるのは、ランボと復活した獄寺。二人は会場のあらゆる所を駆け抜けていく。ぴょんぴょんと飛び跳ねるランボの着地点を予測した獄寺は、スライディングでランボをキャッチ、そのまま両手で拘束するとツナヨシの元へやってきた。
「スンマセン、十代目。アホ牛がうるさくて」
「はは、いつものことじゃん」
「なんだとーこのダメツナ!!」
「てめぇ」
「ぐぴゃ~~~」
ぐぎぎぎぎぎと締め上げる獄寺。まあまあ、と割って入ったツナヨシは獄寺からランボを譲り受けた。ツナヨシの腕に抱かれてランボはぐしぐしと涙と鼻水をぬぐう。
「まったく、十代目の誕生日パーティーだってのに、プレゼントのひとつも用意してねぇのかよ」
「ん~ツナ、誕生日?」
「知らなかったのか、てめぇ」
「むかっ!ランボさん、ちってたもんね!ツナーこれやるじょ」
そう言って、モゾモゾとランボがもじゃもじゃ頭から差し出してきた物は、毎度おなじみ巨大なペロペロキャンディーだった。ちなみにブドウ味。食べかけの痕跡アリ。
プチッ――――
「こんの、アホ牛がぁぁぁ!!」
「んぎゃぁぁぁぁーーー獄寺のアホー!タコ!!」
「てめぇ待ちやがれーーーー」
ぎゃいぎゃいと更ににぎやかに追いかけっこを開始した二人なのだった。
本人達は至って真剣なのだが、見ているこちらにはコメディ以外の何物でもない。
「ははは、ありがとな。ランボ」
手に押しつけられた巨大キャンディーを持ってツナヨシは乾いた微笑を浮かべた。
(なんだろう、ランボのプレゼントが一番まともに見えるのは。泣けてくる・・・)
作品名:はっぴい・はっぴい・ばーすでー <前編> 作家名:きみこいし